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3時10分、決断のとき [2009年 レビュー]

3時10分、決断のとき」(2007年・アメリカ) 監督:ジェームズ・マンゴールド

 50年前の映画「決断の3時10分」のリメイク作品。
 さすがにオリジナルのままというわけにも行かず幾分アレンジが施されているが、この変更点がかなりビターで結果オリジナルよりさらに骨太な西部劇へと変貌を遂げている。

 貧乏農場の主、ダン・エヴァンス(クリスチャン・ベイル)は、借金返済の必要に迫られ、強盗団のボス、ベン・ウェイド(ラッセル・クロウ)の護送という仕事を引き受ける。目的は遠く離れたコンテンション駅まで送り届け、3時10分初のユタ行き列車に乗せること。しかし移送される前にボスを奪還しようと、強盗団の手下が襲いかかる…。

 この映画は主演の2人をツモれた段階で、作品の格がワンランク上がったと言っていい。
 ラッセル・クロウとクリスチャン・ベイル。
 本国でも衰退の一途をたどる西部劇というジャンルの中、2007年の全米興行収入48位(約5,300万ドル)という成績を上げられたのも、キャスティングの力が大きく左右していたと思われる。
 ちなみにジャンル別(Western)の興行成績は歴代10位。2000年代に入ってからベスト10入りした作品は05年の「ブロークバック・マウンテン」(歴代6位)と、00年の「シャンハイ・ヌーン」(歴代8位)の2作品しかなく、BOXOFFICEのデータが西部劇の人気の無さを如実に物語っている。早いハナシがアメリカの若者に西部劇はCOOLじゃないのだろう。

 そうは言っても僕は男だから西部劇は好きだ。そこに信念を持った男がいて、社会悪と戦ってくれればそれで言うこと無し。本作の場合は「男のプライド」が重要なテーマになっていて、2人のセリフがときどきバビーン!と僕をシビさせてくれる。特にダンが家を出て行くとき、妻アリスに囁くように心情を吐露するシーンが一番しびれた。「男にはやらなきゃならないときがある」。それをラッセル・クロウとクリスチャン・ベイルの2人が教えてくれるのだ。もうそれだけでどんぶり飯3杯は食える。

 せっかくなのでオリジナル版との比較をしておく。
 観ていて一番残念だったのは、ウェイドを護送する前にダンの家で時間稼ぎをする件。オリジナルではダンが家族への影響を考えて、かなり抵抗をするのだが、リメイク版ではそこがあっさりし過ぎていて拍子抜けしてしまった。
 ダンの家族で言うと、終盤重要な絡みをするのがオリジナル版では妻のアリス、リメイク版では長男のウィリアムになっている。リメイク版はどうせならウィリアムを心配したアリスもやってくる、という設定でも良かった気がする。
 そして肝心なのはエンディング。
 オリジナルとは大きく異なる結末に驚いた。極めて現代的で悪くないが、まさかここまでビターだとは。
 オリジナル版を知らないほとんどの人にはかなり面白い西部劇だと思う。
 2大スターの競演は純粋に見もの。

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チェンジリング [2009年 レビュー]

チェンジリング」(2008年・アメリカ) 監督:クリント・イーストウッド

 1920年代後半、カリフォルニア州で起きたゴードン・ノースコット事件を基にした実話。
 誘拐された子どもが警察の手によって5ヶ月ぶりに戻って来たが、その子どもはまったくの別人だった…という今では考えられないストーリー。まったく実話の強みである。

 このドラマを面白くしている要因は、まず当時のロサンゼルス市警が敵としてクリスティン(アンジェリーナ・ジョリー)の前に立ちはだかることだ。市民の健全な生活を守り、正義の名の下に悪を追求するはずの警察が、保身のために権力を振りかざすことになったら、対峙する一市民はまったくの無力である。つまりクリスティンは失踪した息子を取り戻す以前に、メンツを優先する悪徳警官と闘う羽目になるのだ。
 苦境に立たされる主人公には敵が一人であるより、次々と何人も現れる方が面白い。そのセオリーに則った展開が本作でも繰り広げられる。

 最大の敵であるロス市警からは、2人の刺客が放たれる。
 まず登場するのが、息子ウォルターと名乗る少年だ。クリスティンがいくら「息子じゃない」と叫んでも、少年は顔色一つ変えず自分はウォルターだと言う。警察の前だけでなく、クリスティンと2人きりになっても少年が事実を話さないだけに、この件は実に恐ろしい。
 続いての刺客は警察に歯向かったことで送られる精神病院の医師。少年を息子だと認めない限り、精神に異常をきたしているとされ、院からは出られない。クリスティン絶体絶命である。この苦境からどう脱出するかが前半の見どころだ。

 後半新たに登場する敵がゴードン・ノースコットである。
 事件を知らない人間にこの男の登場は急展開だった。そしておぞましい事件に巻き込まれた可能性を思うと、観客のクリスティンに対する同情は加速度的に増して行く。
 この時点での敵は3組。ウォルターを名乗る少年。ロス市警。そしてノースコット。
 ロス市警とノースコットとの闘いは法廷劇となる。ここのカットバックは見事な編集だった。シーンとしても必要最低限の露出に留め、余計な時間をかけない作戦をとったイーストウッドの判断に拍手。
 そして最後にもう一人の敵が現れる。それはクリスティン自身の“葛藤”である。
 終盤間近。この事件を一体どこまで描くのかと思った瞬間、驚くべき事実が明らかになる。まさに事実は小説より奇なり。この作品で唯一全身が粟立った瞬間だった。

 残念だったのは、クリスティンを名乗る少年の背景が希薄であること。彼に対する観客の「なぜ?」はもっと具体的に解消するべきだったと思う。が、イーストウッド作品の中ではベスト5に入る佳作と言っていいだろう。

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ワールド・オブ・ライズ [2009年 レビュー]

ワールド・オブ・ライズ」(2008年・アメリカ) 監督:リドリー・スコット 脚本:ウィリアム・モナハン

 ハリウッド映画のすごいところは、“もっともらしい嘘”が得意なところだ。
 特にCIAが関わる国家機密モノは、その実態を知る者が少ないだけに、その気になれば“いかようにも”作ることが出来る。こういった作りこみはハリウッドが世界一巧いと思う。そして作りこみが本気であればあるほど「現実を超越した非現実」が完成すると言うわけだ。

 CIAの工作員フェリス(レオナルド・ディカプリオ)と、ベテラン局員のホフマン(ラッセル・クロウ)は、国際的テロリスト組織のリーダーを捕獲する任務に当たっていた。フェリスは世界中を飛び回り、命がけの毎日を送る一方で、上司のホフマンはアメリカの本部や自宅から携帯電話で指示を出すだけ。フェリスはそんなホフマンに不満を抱き、作戦の遂行についても何かと対立をしていた…。

 劇中、重要なアイテムとして「偵察衛星」が登場する。
 この衛星のおかげで、ホフマンはワシントンにいながら世界中どこでも監視することが出来る、という設定になっているのだが、本作における「ハリウッドの本気度」はまずここに現れている。
 この世に偵察衛星が存在していることは事実である。しかしCIAの一局員がそれを自由に動かせるかどうかと、ターゲットの顔まで認識出来る性能かどうかは分からない。分からないけれど、「それくらいのことはもう出来るんだろう」と思わせてしまうところがハリウッドの凄いところなのだ。嘘(Lie)ではない、はったり(Bluff)である。まさに「ブレードランナー」のリドリー・スコットらしい。

 ストーリーも良く出来ている。
 タイトルにある通り「嘘」が重要な鍵を握っていて、嘘が得意なCIA(これは事実)モノとしては秀逸な展開だ。唯一「主人公は絶対に死なない」という予定調和を、予定調和に見せないつもりで用意した設定が効いていないところが残念なくらい。
 「ディパーテッド」と「ブラッド・ダイアモンド」で俳優として完全に開花したディカプリオはここでも安定した演技を見せ、リドリー・スコットから「体重を20キロ増やしてくれ」と依頼されたラッセル・クロウも、毒の抜けかかった嫌味な中年管理職を見事に演じている。2人の掛け合いだけでも見応えは充分。リドリー・スコットのそつのない演出は言うに及ばず。完成度の高いサスペンスだ。観て損はない。

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天使と悪魔 [2009年 レビュー]

天使と悪魔」(2009年・アメリカ) 監督:ロン・ハワード 原作:ダン・ブラウン

 驚くべきスピード感で謎解きにまったくついて行けず。
 「原作読まずに観るなんざ100年早いわ、このドアホ」
 と、ロン・ハワード言われているのかと思った。

 「ロバート・ラングドン」シリーズの第2弾である。
 僕は「ダ・ヴィンチ・コード」も、そして今回も原作を読まずに観たが、特に今回はヴァチカン全体を爆破する「反物質」なるものが出て来た瞬間、一気に観る気が失せた。なぜなら「スンマセンなあ、これベタベタのフィクションでんねん」と言われたのと同じことだからだ。その断りが早過ぎる。このあとにイルミナティだの、コンクラーベだの、もっともらしい単語が出て来ても、僕は耳を貸す気になれなかった。
 トム・ハンクスの演技は見応えがなく、見栄えのする女優がいるわけでなし、何度途中でストップボタンを押そうとしたか分からない。実際何度か落ちたし。唯一の興味はユアン・マクレガーと、すっとんきょうなストーリーのオチ。このオチは良く出来ていたけれど、それもB級サスペンスと思えばこそだ。

 B級サスペンスにこんなに金をかけて良いのか?とも思った。ローマやヴァチカンのロケーションは美しく、そこに駆り出されたエキストラの数も尋常じゃなかった。クライマックスシーンの膨大なエキストラは一部CG合成だと思われるが、よくもまあこんなに好き勝手に撮影をやらせてくれたもんだと感心する。繰り返すが、大した作品じゃないのに。

 「天使と悪魔」というタイトルを意識した照明は面白かった。特に教皇執務室でトム・ハンクスとユアン・マクレガーが2人きりで対面するシーンは、どちらの役者も顔の半分にしか照明が当たっておらず、人間の中の「天使と悪魔」を表現していた。他にも目を凝らせばロン・ハワードなりのこだわりが映像に隠されているはずだが、残念なことに前向きで観る気は序盤で失せている。
 ヘリコプターの一件もなあ。あれは無いよなあ。

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ハピネス [2009年 レビュー]

ハピネス」(2007年・韓国) 監督・脚本:ホ・ジノ 脚本:イ・スキョン、シン・ジュンホ、ソ・ユミン

 ホ・ジノは物静かな恋愛映画を得意とする監督だ。
 韓国の映画賞を総なめにした長編デビュー作「八月のクリスマス」。
 イ・ヨンエの澄んだ空気のような美しさが際立っていた「春の日は過ぎゆく」。
 作品のクオリティは低いものの、行間の演出に長けた「四月の雪」。
 いずれも劇場で観ると、自分の呼吸や鼓動を抑えたくなるほど静かな(セリフも音楽もない)シーンが多い。この“間”の操り方はホ・ジノ独特のものだ。僕は「四月の雪」をそうと知らずに観て、タッチが「八月のクリスマス」に似ていると思い調べたら、やはりホ・ジノ作品だったので驚いたことがある。

 ソウルでクラブを経営していたヨンス(ファン・ジョンミン)は肝硬変に冒されていた。
 店は潰れ、田舎の療養施設で治療することになったヨンスは、そこで肺疾患患者のウニ(イム・スジョン)と出会う。やがて2人は恋におち、施設を出て共に暮らすようになるが、その1年後ソウルから友人とかつての恋人がヨンスを訪ねてやって来る…。

 ヨンス一人で「都会のねずみと田舎のねずみ」を演じるようなストーリー。
 よく出来ていると思う。よく出来ているからこそ、都会で暮らす地方出身者と、過去に一度でも女性に酷い仕打ちをしたことのある男は、きっとまともに観ていられない。僕自身どちらにも当てはまる人間なので激しく動揺してしまった。「なんて酷い男なんだ」とヨンスのことを思いながら、僕はかつての自分を何度も恥じた。思い当たる節のある男子は観ても良し、観なくても良し。ただ言わせてもらえば、観れば必ず優しい気持ちになれる。
 それはともかく。
 タイトルにあるとおり「幸福とは何か」を考えさせられる作品である。
 俳優に与えられた言葉は最小限で、観客は俳優の表情からヨンスとウニの感情を推し量り、それぞれのドラマを完成させることになる。すると「幸福とは何か」という問いが自ずと湧き上がって来るのだ。

 人生は選択の繰り返しである。
 しかもぶっつけ本番。「お試し」も「待った」も許されない。唯一許されることは「もしも…」と思いを巡らせることだけだ。
 選んだ道の数だけ選ばなかった道がある。
 歩を進めなかった道に残された人のことを時には思い出すのもいい。
 物静かな映画だから、その余裕は充分にある。

 ウニを演じたイム・スジョンの儚い演技が心に染みる佳作。

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ハリー・ポッターと謎のプリンス [2009年 レビュー]

ハリー・ポッターと謎のプリンス」(2008年・イギリス/アメリカ) 監督:デヴィッド・イェーツ

 ハーマイオニーの成長を確認する以外に興味の無くなったシリーズの最新作。
 ストーリーなんてもうさっぱり分からないまま、本当に惰性で観てます。覚えてるのは誰がいいモンで誰が悪モンかくらい。そんな僕に154分は長過ぎる!ハーマイオニーが出てないシーンでは何度落ちそうになったか分かりません(笑)。しかも今回のストーリーは辛かった。まさかと思ったけれどハーマイオニーがロンに好意を寄せていたなんて!!!

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     ↑ ロン

 ちゃんと観て来なかった僕が悪いのかも知れませんが、ロンを好きになる要因がまったく分からないのです。いーえ、原作を読んでいれば分かるなんて言われたくありません。だって映画なんだし。あーあ、次回作を観るモチベーションがなくなったかも…。

 このシリーズ、僕にとってはハーマイオニーの成長を見守ることがすべてなのですが、一方でCGソフト開発の歴史でもあるような気がします。
 今回多用されていたのが、インクを水の中に垂らしたときの拡がりを表現したようなエフェクト。「ハリー・ポッター」はなんたって魔法使いのお話ですから、特殊効果チームは毎回苦労していると思います。しかしクリエイターの突拍子もないアイディアがあってはじめて新たな
映像表現技術が生み出されるわけで、そう考えるとこのシリーズは映画業界にかなり貢献していると思いますね。ジェームズ・キャメロンだって「ロード・オブ・ザ・リング」のフルCGキャラクター、ゴラムを観て「いよいよ作れる」と確信して「アバター」の制作に入ったくらいですから、ハリポタシリーズに刺激を受けた人たちが、この先新しい作品を生んでくれることでしょう。ま、僕が一番期待するのはエマ・ワトソン主演の映画ですけど。あー、それにしても何とかならんか、ハーマイオニーの気持ち(笑)。

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グラン・トリノ [2009年 レビュー]

グラン・トリノ」(2008年・アメリカ) 監督:クリント・イーストウッド 脚本:ニック・シェンク

 タイトルはクルマの名前だった。
 「グラン・トリノ」とは1972年から76年まで製造されたフォード・トリノの名称で、クリント・イーストウッド演じる主人公ウォルト・コワルスキーが大事にしている愛車。ではタイトルにした理由は何か。それを知ることが、この映画を理解することになる。
 しかし子どもには分からない映画だと思う。ある程度の社会的地位を確立し、失うものがあるオトナでなければ、主人公ウォルトの気持ちは分かるまい。
 
 物語は妻の葬儀から始まる。ウォルトは出席する孫たちのだらしない格好に苛立ち、それが2人の息子夫婦に対する不満にもつながり、さらには何かと世話を焼こうとする若い神父にも「頭でっかちの童貞野郎」と毒づく。とにかくウォルトは自分が認めた極一部のもの以外、すべてにイラつくのだ。
 そんなある日。隣に住むアジア系移民の子ども、タオとスーを不良たちから救ったのがきっかけで、タオという少年との交流が始まる。ウォルトはタオを通して今どきの若者にも「イイ奴」がいることを知るが、タオの周辺をうろつくチンピラと関わったばかりに、ある事件を引き起こしてしまう。

 観終わってしみじみと感じるのは、これは男の映画だということ。
 僕はある種偏見に満ちたウォルトになかなか感情移入できなかったせいで、ドラマの途中胸を熱くすることはなかったのだけれど、エンディングでグラン・トリノが走るシーンを観て、思わず涙ぐんでしまった。1972年製のフォード・トリノが2008年の街中を颯爽と走っている。コンピュータで設計された現代のクルマとは比べ物にならない存在感をアピールしながら走り去るその後姿は、ウォルトの背中“生き様”に重なる。自動車と言う工業製品に人間並みの愛着を抱ける「男」でなければ理解出来ない世界観である。

 ただ、クライマックスのウォルトの行動は男の僕にも予想がつかずにドキドキした。「許されざる者」のことを思い出していれば、あるいは想像出来たのかも知れないが、「どうやって観客の満足を勝ち取るか」という問いには答えを見つけ出せないまま、僕には衝撃的な結末を迎えてしまった。
 娯楽アクション映画なら劇中のタオが望む結果で良かったと思う。誰もが溜飲を下げる結末。しかしこれはまもなく人生のゴールを迎えようとしている78歳の老人が撮った作品である。俳優として、映画監督として、確固たる地位を築いたイーストウッド自身の「決断」が試されるシーンだったと思う。ここは本作を語る上で最も重要なポイントだ。
 
 イーストウッドは自身の「死に方」をずっと考えていたのだと思う。具体的に言うと「自分の死そのものを、何かの役に立てられないか」と考えているような気がする。
 年明け早々僕は47歳になる。死を語るにはまだ少し早いかも知れないが、「どういう死を迎えるか」はここ数年考えなくもない。僕と同世代の男衆はこの作品を観て、自身の「死生観」と一度向き合ってみるのも悪くないだろう。
 愛車を駆って、いろんなことを考える旅に出てみたくなった。

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雲南の花嫁 [2009年 レビュー]

雲南の花嫁」(2005年・中国) 監督:チアン・チアルイ

 少数民族を描いた映画は面白い
。知られざる文化と風習を知るだけでためになるし、想像もつかないドラマがそこにあるからだ。
 本作は雲南省の少数民族、「イ族」の結婚にまつわる風習がテーマ。その風習とは「結婚をしても3年間は同居してはならない」というもの。念願かなって結婚をした幼なじみのアーロンとフォンメイも、もちろんそのルールを守るようにと言われるが、特に新妻のフォンメイがそのしきたりを何かと破ろうとする。結果、村全体を巻き込んだ騒動に発展し、やがて2人の関係もギクシャクし始める…。

 テーマは面白いけれど、展開が面白くない。そもそも「なぜ3年間は同居が許されないのか」の答えがどこにもないのだ。しかも物語が進むにつれ、同居どころか同じ村にいることも、2人きりで会うことも許されないということが明らかになる。なのにその理由は一言も語られない。これは映画として致命的な欠陥だ。
 映画そのものはコメディでもある。が、笑いを誘引するテクニックは未熟。脚本のセンスもカット割りも音楽もどれも拙い。笑わせようとしているシーンで笑えないことほど観ていて辛いことはない。
 唯一、見応えのある設定は夫アーロンに想いを寄せる女子が妻フォンメイの近くにいること。もちろんドロドロの展開なんかにならない。極めてプラトニックである。この娘の想いが一途であればあるほど、「3年同居不可」という設定が効いてくるのだが、その理由が明らかにならないためにせっかくの展開も尻すぼみに終わっている。

 もしもこの映画を弁護するなら、「中国当局の検閲を受け、認可された映画」という点か。
 中国では台本から撮影後まで何度もチェックを受け、ときにフィルムはズタズタにされることもあると聞く。本作の場合も、どうにも繋がりの悪いところが何箇所かあり、当局の判断でカットに及んだのではないかと思われる。もしもそんなことがひとつもなかったら、それは編集のセンスの無さの表れになってしまうのだが…。

 少数民族映画として楽しめるのは、赤を基調とした女子たちの民族衣装。これほど鮮やかな脚本だったらどれほど良かっただろう。と、つい思ってしまった。
 一応「雲南の少女 ルオマの初恋」も観てみるか。

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腑抜けども、悲しみの愛を見せろ [2009年 レビュー]

腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」(2007年・日本) 監督・脚本:吉田大八

 タイトルは力強い。しかし映画からその熱量は感じなかった。
 理由は3つあると思う(と言っても、オリジナルを知らないので、あくまでも想像だ)。
 ひとつは「舞台用の戯曲である」と言うこと。
 これは個人的な趣向なので大きな声では言えないが、結局「劇映画用のハナシ」じゃないのだ。そりゃ舞台なら面白かろう。なんたって登場人物の設定がハチャメチャだから。それもこれも舞台だからこそ成せる技なのだ。
 
 舞台はその空間からして非現実である。観客が許す限り、そこでは何が行われてもいい。頭の上にライオンの面を乗せた男が「心配ないさ~」と歌ってもいいし、厚化粧の女が男物のスーツを大股で着こなし、「僕には君しかいないんだ!」と叫んでもいい。しかし映画でそれをやったらダメだ。舞台にリアリティは必要ないが、映画にリアリティは欠かせないからだ。
 本作で最もリアリティに欠けていたのは、主人公の和合澄伽(佐藤江梨子)と、義理の姉にあたる待子(永作博美)のテンションだろう。「いや、そこはフィクションなんだから、いいでしょう」と言われるのを承知で言う。
 「北陸の山間部にこんな女はいない」
 ロケーションと女優がこれほどマッチしない映画も珍しいと思った。もちろん舞台用の本だから仕方ないのだが、だったら相応の演出をしろよ、と思う。

 熱量を感じなかった理由のふたつめは「キャスティングの弱さ」。
 佐藤江梨子がそもそも無い。「和合澄伽」は目的のためなら手段を選ばない“業の女”だ。その凄みがまったく感じられなかった。もちろん本作のプロデューサーは別の女優も視野に入れていただろう。僕ならまず沢尻エリカを口説く。それでダメなら真木よう子。あるいは麻生久美子。百歩譲って藤原紀香か。
 永瀬正敏も弱い。役者としての出力ではなく、この役に永瀬は似合わないと思った。人間の内面にある変態性が永瀬からは微塵も感じられなかったからだ。個人的には田口トモロヲさんがいい。もしくは佐藤浩市。このキャスティングイメージは熱量を感じなかった三つめの理由にもつながる。それは「エロティシズムの不足」である。
 僕はこれが「にっかつロマンポルノ」として作られていたら、かなり完成度の高い作品になっていたんじゃないかと思う。というのも本作はセックスを抜きにして語れない戯曲でありながら性描写が決定的に弱く、登場人物の本気度が全く伝わって来ないからだ。
 誰かR-15指定で作り直してくれないだろうか。二女を演じた佐津川愛美の存在感と永作博美の演技が抜群だっただけに、本当にもったいない映画だったと思う。

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キャピタリズム マネーは踊る [2009年 レビュー]

キャピタリズム マネーは踊る」(2009年・アメリカ) 監督・脚本:マイケル・ムーア

 デビュー作「ロジャー&ミー」は観ていない。けれどそれ以来、20年ぶりに経済問題を取り上げた作品なのだそうだ。リーマン・ブラザーズの破たんを契機に起きた世界的金融危機。その原因を探るマイケル・ムーアの“おなじみ”突撃取材である。

 キャピタリズムとは資本主義のことである。
 経済学者マルクスが19世紀に書いた、かの有名な「資本論」によると、資本主義とは「生産手段が少数の資本家に集中し、一方で自分の労働力を売るしか生活手段がない多数の労働者が存在する生産様式」なのだそうだ。
 早いハナシ、この世は「雇用者」と「被雇用者」に分類されるということ。そして国は多額の税金を納め、多額の献金をする「雇用者」を優遇し、「被雇用者」は蔑ろにするもの、と理解しておけばいい。さらに細かく言うと重要なのは「企業」であり、「決裁権を持つCEO」であるということ。それ以外の人間は「虫けら」同然のようだ。少なくともウォール街では。

 この程度の予備知識で本作は充分に楽しめる。
 斜めから見たムーアの分析は相変わらず面白いし、ムーアならではのロジックが立て板に水の如く展開するため、127分の上映時間もまったく飽きない。レーガン大統領誕生の経緯、アメリカ自動車産業衰退の原因、社員に生命保険をかける企業の実態、コンチネンタル航空機がバッファロー空港の手前8キロ地点で墜落炎上した理由などなど、日本では報道されないもうひとつのアメリカの姿が、本作にはぎっしりと詰め込まれている。
 僕が改めて知ったのは「アメリカが世界一の経済大国になり得た」理由と、「失墜した」理由である。すべては「戦争」が原因だった。勝っておごったアメリカと、負けて這い上がろうとした日本の差は大きかったのだ。
 「成功は一日で捨て去れ」
 先日読んだ本のタイトルが思わず頭に浮かんでしまった。

 一方でこれはマイケル・ムーアのパフォーマンス・フィルムでもある。
 断られることを承知で突撃取材をし、実際多くの現場で“撃沈”している。この計算高さが若干鼻についたりもするのだが、ムーアを煙たがる人間、好意的な人間、近づいてくる人間がいる辺りは、見世物として単純に面白い。今回一番笑えるのは元・ゴールドマン・サックス会長のポールソン財務長官に電話をしたシーン。ムーアが名乗った瞬間に電話を切られる件はまるで「知的なコント」のようだった。

 経済問題はとても難しい。しかしムーア以下優秀な編集スタッフのおかげで見やすい作品に仕上がっている。問題は映画を観たあと観客がどうするかだ。
 僕はいつまでも国や企業を信用していい時代は終わったと思う。
 たとえば日本の2010年度税収は36兆円程度と言われる中、概算要求額は95兆円規模である。あり得ないだろう。仮に月36,000円の小遣いしかないお父さんが月95,000円使ったら、お母さんに怒られるだけでは済まないのだ。
 マイケル・ムーアが最後に言う。
 「もう僕ひとりで闘うのはムリだ」
 そりゃそうだ。僕たちも変わらなきゃ。まずは「無関心」を止めることからはじめてみよう。

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