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007/スカイフォール(2012年・イギリス/アメリカ) [2016年 レビュー]

原題:SKYFALL
監督:サム・メンデス
脚本:ニール・パーヴィス、ローバト・ウェイド、ジョン・ローガン

 『スペクター』の予習も含めて観る。一昨年以来2度目。
 シリーズ23作目は、これまでにも何度かあった極めて重要な“節目”の1本だった。

 NATOが世界中に送り込んでいるスパイの情報が入ったハードディスクが何者かに盗まれた。007(ダニエル・クレイグ)がその奪還に当たるが、指揮をしたMの判断ミスによって007は死亡。敵のエージェントも取り逃がしてしまう。組織内で立場を危うくしていくM。やがてスパイの個人情報がネット上に流出すると、一部のエージェントが拘束され処刑されてしまう…。

 僕の中で007映画は「敵の野望のスケールとそのリアリティ」によって良し悪しが決まってきた。
 たとえば『ロシアより愛をこめて』(1963)の敵は、犯罪組織としてスケールが小さくて最低だったし、『サンダーボール作戦』(1965)の敵はまさに「スペクター」なのだが、組織のワールドワイドな企みが馬鹿丁寧に説明されているおかげでかなり楽しめたし、『リビング・デイライツ』(1987)になるとソ連KGB内部の権力闘争やアフガニスタン侵攻など当時の国際情勢が反映された設定になっていて、シリアスな007を楽しむことが出来た。
 では『スカイフォール』はどうなのか。

 正直いうと敵組織のスケールは小さい。007ではありがちな「狂信的な個人」が率いる犯罪集団に過ぎない。だから007映画のスケール感もミニマムに近いのだが、今回に限って僕はこれを否定しない。なぜなら本作の主人公は007ではなく、M・ジュディ・デンチだからである。僕は彼女がMを引き受けなければ、007映画は今日まで続いていなかったと思う。

 ジュディ・デンチが3代目Mとして登場したのは、東西冷戦終結後に初めて制作された『ゴールデン・アイ』(1995)からだ。この作品は「スパイの必要性」すなわち「007映画の存在理由」が問われた作品だった。ここで就任したばかりのMは、007ピアース・ブロスナンをこう切り捨てる。
 「あなたは女性蔑視の太古の恐竜で冷戦の遺物」
 素晴らしい一言だった。このセリフによって過去の007映画をすべて古典扱いにし、新章突入を高らかに宣言したのだ。
 さらに1999年、ジュディ・デンチが『恋に落ちたシェイクスピア』でアカデミー助演女優賞を受賞すると、Mの存在感は一気に増した。ジュディ・デンチの力を借りてMの内面を描くことに成功し、『ダイ・アナザー・デイ』(2002)では今作の布石ともいうべき、Mの非情な性格にフォーカス。007も所詮“駒”のひとつでしかないことを我々に知らしめた。

 就任から今日まで、M・ジュディ・デンチの功績は計り知れない。
 だからこそ彼女の最期は一つの物語として描かなければならなかった。今回の007が立ち向かうのは民主主義の敵でもなければ、大英帝国の敵でもない。Mの敵なのである。そこにスケールは必要ない。必要なのはジュディ・デンチに相応しい品格だ。不気味な笑みを浮かべながら現れたのは、アカデミー賞俳優ハビエル・バルデムだった。まったく申し分ない敵だ。ロングショットの長回しで登場させたサム・メンデスのアイディアも秀逸だった。

 007映画として観てみるとダニエル・ボンドの過去2作とは見劣りがする。
 そもそも『カジノ・ロワイヤル』(2006)と『慰めの報酬』(2008)は前後編で描かれたドラマであるから比較にもならない。しかしMを主人公にしたスピンオフ映画だと思って観ると、いくつかの不満が収斂され、よく出来た映画に見えて来るから不思議だ。特にMと007の主従関係は前2作でも丁寧に描かれていて、まさにその集大成というべき作品に仕上がっているのだ。
 M・ジュディ・デンチをリスペクトしてきた僕には満足。その一方で新作『スペクター』に対する不安が芽生えてしまった。ジュディ・デンチのいない007映画は一体どうなっているのだろう。


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  • 出版社/メーカー: 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
  • メディア: DVD


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コメント 4

怪しい探麺隊

「本作の主人公は007ではなく、M・ジュディ・デンチ」ですか....
なるほど.....
by 怪しい探麺隊 (2016-01-12 07:04) 

ken

見かたによって、ずいぶんと印象って変わりますよね。
by ken (2016-01-15 14:57) 

うつぼ

そうなんですよね、この作品はジュディ・デンチ勇退の意味も
ありますが、ボンドは完全に脇役でした。
軍艦島からマカオ、のロケーションは結構ツボにはまりましたが
主題歌もふくめてスコットランドのあのどんよりとした風景の中でMが最期を迎えるのもとても印象的で、彼女の存在感を感じました。

by うつぼ (2016-01-23 09:33) 

ken

「Mの死に場所を用意した」というべき作品でしょうね。
ジュディ・デンチに敬意を表した製作陣に拍手です。
by ken (2016-01-24 22:30) 

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