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ダークナイト ライジング(2012年・アメリカ) [2012年 レビュー]

原題:THE DARK KNIGHT RISES
監督:クリストファー・ノーラン
脚本:ジョナサン・ノーラン、クリストファー・ノーラン

 7月20日にコロラド州オーロラで発生した無差別殺人事件を受け、7月25日のジャパンプレミアで登壇予定だった監督以下スタッフとアン・ハサウェイは急遽来日を中止。しかしジャパンプレミアは行われた。
 東京国際フォーラム、ホールA。観客全員の手荷物検査と金属探知機による身体検査のおかげで物々しいイベントとなり、それはさながら「邪悪なものが蘇ったゴッサム」のような景色でもあった。
 会場はほぼ満席だったと思う。そして着席した約5,000人の観客はこの日、何某かの期待を胸に開演時間を待っていたはずだ。少なくとも僕は大いなる期待を抱いて12列の63番に身体を預けていた。

 上映時間の2時間44分は至高の時間だった。
 これは僕が考える「映画芸術の理想型」である。
 なぜなら「観客の期待を裏切ることで期待に応える」という、まるで西田幾多郎の「絶対矛盾的自己同一」のような作品だったからだ。
 また一方では「観客の期待しないところで、潜在的な期待に応える」というサプライズまであって、本作は「あらゆる欲求を満たす理想的な構造」をしていたと思う。
 恐るべしクリストファー・ノーラン。
 中でも僕は彼の仕掛けた「ミスリード」のテクニックに眩暈がしそうだった。

 地方検事ハービー・デント(アーロン・エッカート)の死の罪を被りバットマンが姿を消した8年後。ゴッサムにマスクを付けたテロリスト、ベイン(トム・ハーディ)が現れる。街は次々と破壊され無法地帯と化す中、ブルース・ウェイン(クリスチャン・ベイル)は再びマスクを付ける決意をする。しかしブルースの肉体は過去の戦いですでに満身創痍になっていた…。

 僕はジャパンプレミアに備えて、シリーズ1作目と2作目の復習をした。
 実を言うと1作目「バットマン ビギンズ」は「そんなに面白いと思わなかった」という記憶から、一度も観直したことが無かったのだけれど、今回その印象はまったく変わっていた。特に序盤の40分はゾクゾクするほど面白かった。
 それは僕が2作目「ダークナイト」の展開を知っているからだ。
 「他人の罪を被ってまで自分の街を守ろうとするブルースの信念は一体どこから来るのか」

 この答えが1作目の序盤40分にあるのだ。
 幼い頃、両親を殺害されたブルースは犯罪者に身を落としてまで「悪」を知ろうとしていた。そして「悪と闘うためには超然的な存在になる必要がある」とヘンリー・デュカード(リーアム・ニーソン)に説かれ、ブルースは“影の同盟”と合流する。その先にあった答えは、次のセリフに集約されていたと思う。助けたレイチェル(ケイティ・ホームズ)に名前を聞かれたバットマンは名乗ることなく、こう答える。

 It's not who I am underneath but what I do defines me.
 人の心は分からない。でも本性は行動に出る。

 これはレイチェルのセリフを引用したバットマンのセリフだが、ダークナイト3部作の極めて重要なテーマを端的に表した言葉だ。つまり「バットマン ビギンズ」の序盤40分こそが、「ダークナイト ライジング」に直結しているのである。
 本分に入る。
 ミスリードが仕掛けられているのは本作だけではない。シリーズを通して仕掛けられているものもある。たとえば前シリーズとの差別化。「トータルコンセプトそのものもがミスリードだったか」と驚かされる展開が本編のラストにある。これ以上はネタバレになるので書けないが、他に僕が認識したミスリードは2つあった。思わず「お」と声を出してしまうほど、僕はあらぬ方向にリードされていた。そのひとつは予告編からすでに行われていたのだ。素晴らしく周到な仕事である。

 映像のチカラも凄まじい。
 「ダークナイト」をブルーレイでおさらいしたとき、メイキングも合わせて観たのだけれど、そこで初めて「原則CGには頼らない」監督だったことを知った。
 本編で言うと冒頭、(予告編にも使用された)小型ジェット機を空中で破壊するシーン。明らかに実写としか思えないクリアな映像に多くの観客が驚くと思う。しかもIMAXカメラで撮っているせいもあって、その美しさはケタ違いだ。
 美しいと言えばアン・ハサウェイ。なんとゴージャスなキャット・ウーマン。なんと見事なボディスーツ。そしてバッド・ポッドに乗るポーズがなんとそそることか。彼女のおかげで本作は「女性のいい匂いがする映画」になったように思う。言い換えれば「アンが登場するだけで五感が満たされる映画」ということ。少なくとも過去2作にそれはなかった。
 キャット・ウーマンの登場はある種「観客の期待に応えた」一例である。 

 そして、やはり賞賛すべきはクリストファー・ノーランのストーリーテラーとしての才能である。
 哲学的な言葉のチョイス。息をもつかせない展開のハンドリング。期待を裏切るセンス。あるいは裏切らないサービス精神。これらをミックスし、バランスを取る仕事は並大抵の力じゃない。
 感動的なラストカットのあと、ホールAには拍手が巻き起こった。監督名がクレジットされると、そのボリュームはさらに大きくなった。約5,000人の観客の何某かの期待にクリストファー・ノーランが応えた証しだ。少なくとも僕は感動に打ち震えて言葉を見つけられずにいた。ただ「スゴイ」としか言えない自分が哀しくもあり、しかし言葉を失う感動とはこういうことかと、久しぶりの感覚に酔いしれてもいた。

 本作を観に行く前に必ず「BATMAN BIGINS」と「THE DARK KNIGHT」を観直して、3部作品としてトータルの完成度の高さを認識して欲しい。
 ヒーロー映画の最高傑作。

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コメント 12

aneurysm

シリーズ最終作としては?と思う部分もありましたけど
3部作を一気に見ても違和感無い造りに
重点を置いたのかな?という気もします。

by aneurysm (2012-07-29 10:26) 

怪しい探麺隊

こんにちは。
私は7/27(金)夜に1日だけ早く先行で観ました。
特にキッカケがあったわけではなかったけれど、「前2作は復習しておこう...」と思い立って自宅で2晩掛けて観ておきましたが、いやぁ観ておいて良かった!と思いました。
仰る通り、ビギンズがより重要ですね。冒頭、ダークナイトの流れで始まるけれども、進展とともにどんどんビギンズに寄って行く...
ビギンズの時にずいぶんと異色の映画の印象があったけれど、こうして通しで観ると、深くて一本通じているものがあって、すごいシリーズだと思います。
by 怪しい探麺隊 (2012-07-29 14:09) 

coco030705

こんばんは。
やはりすごい映画なんですね。すぐ行きたいと思っていたんですが、
kenさんのおっしゃるとおり前2作を復習してから行くことにしますね!
by coco030705 (2012-07-29 20:19) 

ken

>aneurysmさん
 僕も観ていて「?」なところはありましたが、それはたわいもないことばかりでした。
 nice!ありがとうございます。

>怪しい探麺隊さん
 虫の知らせとでも言うのでしょうか。
 僕も復習していかないとダメかも知れない、って思ったんですよね。
 結果、大正解でしたけど。
 「ビギンズ」の本当の評価は今回で大きく変わりました。
 nice!ありがとうございます。

>coco030705さん
 もう復習しないで行ったら、後悔必至です!w
 nice!ありがとうございます。
by ken (2012-07-29 22:44) 

きさ

これは面白かったです。3時間近い映画ですが演出の冴えで長さをまるで感じさせませんでした。
現時点では今年後半のベストワンです。
俳優陣はみな素晴らしく、クリスチャン・ベイルと期待していたアン・ハサウェイがいいのですが、ゲイリー・オールドマンが三部作では一番活躍するのがファンとしては嬉しい。
バットマンが不在の中盤は、オールドマンとジョセフ・ゴードン=レヴィットのコンビが映画を支えるといっていい好演ですね。
マイケル・ケインも出番は短いですが、印象的でした。
主要キャストには全て見せ場が用意されているのがいいです。
ラスト1/3の盛り上がりは鳥肌ものでした。
by きさ (2012-08-04 07:34) 

ken

惚れ惚れする映画とはまさにこういうことなんでしょうね。
nice!ありがとうございます。
by ken (2012-08-05 07:22) 

まみりん

こんにちは~
ジャパンプレミアでご覧になったんですね~うらやましいっっ

衝撃の前作から間があいてたので、私も一応復習をしてから観たのですが…
どちらかというと、ダークナイトの方だよね??と勝手に判断して、ビギンズは流し見程度にしてしまった
序盤の40分をしっかり観なきゃダメだったのね……
家に帰ったらもう一度観直して、リベンジ行ってみます

観終わった後に拍手がおこるのって、良いですよね~。そういう雰囲気で鑑賞したかったな~♪
by まみりん (2012-08-13 18:48) 

ken

この手の大作はお祭りの中で観るのが一番楽しいですよね。
僕はダメ元で応募したジャパンプレミアが当たってラッキーでした。
ビギンズの復習はお忘れなく~w
nice!ありがとうございます。
by ken (2012-08-13 19:55) 

eklady

いつも、映画鑑賞の参考にしています。今回の三作目は良かった~の一言でした。
アメコミヒーロー物では唯一、泣けちゃいました^^
他の作品が霞んじゃいそうです。

by eklady (2012-08-17 16:00) 

ken

ekladyさん、お久しぶりです。
参考にして頂きながら、最近は更新が滞っていてスイマセン。
でも、この作品は本当に良かったですね。
by ken (2012-08-17 18:52) 

coco030705

こんばんは。
遅まきながら観てきました。前作2作を復習してからと思っていたのですが、TSUTAYAですべて貸し出しとなっていたのでやむなく復習せずに
行きました。
2時間半余り、まったくだれることがなくすごい作品だと思いました。
TBさせていただきます。
by coco030705 (2012-08-29 01:05) 

ken

復習出来なかったのは残念ですが、それでも楽しめたようですね。
僕はブルーレイがリリースされたら、イッキミするのが楽しみです。
by ken (2012-09-03 00:35) 

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