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哀しき獣(2010年・韓国) [2011年 レビュー]

原題:THE YELLOW SEA/黄海  監督・脚本:ナ・ホンジン

 24thTIFF7本目。
 昨年僕がベスト20にチョイスした「チェイサー」の監督、ナ・ホンジンの新作。
 実は成瀬巳喜男の「杏っ子」とダブルブッキングだったんだけど、「チェイサー」の印象が勝ってこちらをチョイス。

 グナム(ハ・ジョンウ)は中国延辺朝鮮族自治州で暮らすタクシー運転手。
 稼ぎを求めて、妻を韓国に出稼ぎに出したが、送金も連絡も途絶えていた。しかも妻を韓国へ密入国させるために作った借金で首が回らない。そんな折、グナムは朝鮮族を牛耳る犬商人のミョン(キム・ユンソク)から、韓国へ行ってある男を殺せば借金は帳消しにしてやると言われ…。

 まずは「朝鮮族」という設定の巧さが光っていたと思う。
 「朝鮮族」とは中国に住む朝鮮民族を指すが、日本で言うところの「在日朝鮮人」とは違い、中国国籍を持つ中国人なのだそうだ。分かり易く言うと「朝鮮系中国人」。中国人でありながらルーツは朝鮮半島にあるという微妙な立ち位置の彼らが、韓国に対して抱く想いを垣間見るだけでも面白い。
 ここでの主人公は身を持ち崩した朝鮮族の男である。監督のナ・ホンジンにろくでなしの男を撮らせたら、どれほど面白いかは前作で立証済みだ。だから本編には期待した。その期待には途中まで充分すぎるほど応えてくれるのだけれど、ストーリーのオチだけが難解だった。

 そもそも人を殺すという仕事は只事じゃない。
 なのにグナムは借金返済のために、その理由も知らされず、実行犯になろうとしていた。どう贔屓目に見ても人生が好転するとは思えない仕事を引き受けざるを得なかった男の悲哀。これは実に良く描けている。しかも結局自らも命を狙われると言う、この手の作品のお約束な展開へと向うのだが、そのスピード感が素晴らしい。観客にも冷静さを取り戻すヒマを与えず、とにかくどうやってこの最悪な状況から逃げ出すかを共に考えるよう、ナ・ホンジンは我々をも追い込んで行く。やがて、あれよあれよと言う間に事は大きくなり、一体何が原因でこんなことになってしまったのか。そもそもミョンに殺しを依頼した人間は誰なのか。またその理由は何なのか。あるタイミングで、ただそれだけが知りたいとグナムにも観客にも思わせる。このリードは見事だったと思う。

 そしてオチである。
 いろんなことが考えられた。ただ確実にこうだ、という答えは僕には出せなかった。
 幸運なことに上映後、監督が登壇しティーチインが行われた。客席からもオチについての質問が飛んだ。そこで監督の意図したことは明かされたが、僕はそう受け止めていなかった。客席からも驚きの声が上がった。
 「実は韓国で公開したときも、『最後の意味が分からない』とネットで話題になったんです」
 と監督。そう言う意味では惜しい。オチのキレが良ければ、かなり高く評価出来る作品だった。
 しかし、ナ・ホンジンの味は存分に堪能出来る。驚くほどのカット数に目をチカチカさせて欲しい。来年2012年1月7日から劇場公開。オチを知った上でもう一度観たい。

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コメント 9

Sho

「チェイサー」の監督というので興味が沸きました。又走ってますね(笑)
映画やドラマを見ていて、「この場面はどういう意味なんだろう?」「私はこう解釈したけど、監督の考えはどうだったんだろう?」という思いはしばしばありますが、直接御本人から話を伺えるというのは、すごくいいですね!
私は、監督の意図するところと違う感じ方をしても、それはそれでいいなと思います。
東京国際映画祭って、たくさんの映画をいっぺんに上映しているんですね。
遅まきながら知りました。
by Sho (2011-11-28 23:38) 

キム・マンドク~美しき伝説の商人 DVD

そもそも人を殺すという仕事は只事じゃない。
by キム・マンドク~美しき伝説の商人 DVD (2011-12-07 13:20) 

ken

>Shoさん
 東京映画祭で30本くらい映画を観るのが僕の夢です。
 nice!ありがとうございます。

>キム・マンドクさん
 ごもっとも。
by ken (2011-12-09 23:25) 

瑠璃子

チェイサーを見て私は帰り道まっすぐに歩けなくなった(同じような感じになったのは幕末太陽伝でした)ぐらい衝撃をうけました。
新作、かなり期待してます。レビュー読んでますます楽しみになりました。ありがとうございます。
by 瑠璃子 (2011-12-30 01:34) 

ken

「チェイサー」を観ている人には、この作品相当面白いと思います。
僕のレビューも「かなりいいところを突けた」と自画自賛しているので
本作はきっと愉しんで頂けると思います。
by ken (2011-12-30 17:05) 

瑠璃子

今日、見てきました。いやあ凄い作品で期待を裏切らないものでした。ただ私はラストが蛇足だな…と思いましたが。
そこで気になるのは、本文中の「監督の話したオチ」ですw
それははなんでしょうか?もしかして「○○○の夢」とかでしょうか…w
by 瑠璃子 (2012-01-29 21:51) 

ken

ラストの描写がもうちょっと分かり易ければ、これは傑作でしたね。
監督の話したオチとは、「そもそもの言い出しっぺは誰なのか」
の答えです。聞いてもよく分からなかったですけどね。
by ken (2012-01-31 00:17) 

confuoco

はじめまして!
監督のQ&Aを聞けたなんてうらやましいです!
私が観た時も
人間関係がわかりにくい、というブロガーさんがいたり
観た後に相関図書いてなお、頭を抱えていた人もいましたが...
そんなにわかりにくい演出ではなく、観ていてオチはつかめました。
グナムがいちばん愕然としたと思います...

by confuoco (2012-02-12 21:56) 

ken

ようこそconfuocoさん。
ティーチインで作品の詳細を確認出来るのが映画祭のいいところですね。
僕はあのオチを違う風に解釈したんですけど、それでも面白かったなと思います。
グナムがどう愕然としたかを、映画を観た皆で話すのもきっと楽しかったでしょうねw
by ken (2012-02-12 22:19) 

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