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イングロリアス・バスターズ [2010年 ベスト20]

イングロリアス・バスターズ」(2009年・アメリカ) 監督・脚本:クエンティン・タランティーノ

 こんなブログをやっている僕が言うのもなんだが、他人の映画の評価なんて聞くもんじゃない。
 あくまでも「観ようと思っている映画の」ということだけど、本作の劇場公開時、僕は先に観た知人から、「イマイチ」と聞いてしまう。それを真に受ける僕も悪いのだが、それが最初に聞く感想だったりすると、以降はこの「イマイチ」というマイナス評価が基準になってしまうので、これをプラスに盛り返すのはかなり難しいのだ。
 いや、他人の評価など信じなければいいのだ。ましてや自分で観てもいないのに、「イマイチらしいよ」なんて無責任に喧伝すべきじゃない。…と猛省した。というのも、僕にこの「イングロリアル・バスターズ」はゾクゾクするほど面白かったからだ。

 舞台は第二次大戦中のフランス。これは“ユダヤハンター”と呼ばれるハンス・ランダ大佐(クリストフ・ヴァルツ)に家族を皆殺しにされたユダヤ人女性ショシャナ(メラニー・ロラン)と、情け容赦ないナチ狩りで知られるユダヤ系アメリカ人部隊“バスターズ”による壮大な復讐の物語。と同時にタランティーノが独自に紡いだ完全なるホラ話である。

 僕は本作でようやくクエンティンの映画の見方が分かった気がする。
 彼の映画はストーリーを追いかけないほうがいい。僕がこの映画のどこにゾクゾクしたって、すべてはクエンティンのテクニックである。
 農家の軒下に隠れていたショシャナは、ナチス兵の機関銃から逃れ、森に向かって走って行く。映画ははじまって間もない。観客は誰もこの少女に感情移入していない。逃げるショシャナを認めたランダ大佐がゆっくりとワルサーを抜く。必死に逃げるショシャナ。狙いをつけるランダ大佐。音楽の音量も上がって行く。次に聴こえるのは銃声!と思いきや、音楽はカットアウト。ランダ大佐は銃を降ろし、「まあ、いい」と呟く。「達者でな!ショシャナ」
 この緩急。映画の文法をことごとく逆手に取る演出に僕はゾクゾクした。そうなのだ。クエンティンの映画はヘタにストーリーなど追わず、左脳ではなく右脳で愉しむべきなのだ。僕はクエンティンに手玉に取られることがこんなに気持ちいいとは思いもしなかった。


 クエンティンはディテールにこだわる人でもある。
 中盤、ショシャナとランダ大佐は時を経て、あるレストランで邂逅する。先に気が付いたのはショシャナ。正体を知られまいと席を立つ彼女を制し、着席を促したあとで、大佐は「シュトルーデル」というデザートをショシャナに勧める。
 僕はこのシーンを観ながら、なぜシュトルーデルを食べるのだろうと思った。ただ相手を見たままの会話よりも、ときに目線を外すことが出来るシチュエーションは巧いなと思った。
 注文をするとまもなく2皿運ばれて来て、食べながら大佐はいくつかの質問をする。しかし、それはショシャナの正体に関わることではない。続いて大佐はショシャナにタバコを勧め、「他にも聞きたいことがあったけど、なんだったかな」と呟く。大佐のクローズアップ。と、不意に「思い出せないくらいだから、大したことじゃないだろう」。
 大佐は立ち上がり去って行く。残された皿。大佐が食べ残したシュトルーデルにタバコの吸い殻が突き刺さっている。
 僕はこの瞬間は意味が分からなかった。しかし、あとで調べてみて分かった。シュトルーデルはユダヤの伝統的なお菓子だったのだ。
 “ユダヤハンター”の無言の圧力。クエンティンの仕掛けに僕は今さら背筋が寒くなった。

 ショシャナを演じたメラニー・ロランが美しい。ときおりユマ・サーマンの面影を観ることが出来るから、間違いなくクエンティンの趣味だろう(笑)。
 ランダ大佐を演じたクリストフ・ヴァルツ。ドイツ語で「Ich bin herrlich!」、フランス語で「Je suis splendide!」、イタリア語で「Io sono splendido!」、日本語で「素晴らしい!」。「イングロリアス・バスターズ」は間違いなく彼の映画だ。

 「キル・ビルVol.2」で下げていた、僕の中のクエンティン評はこれで一気に盛り返した。いや「キル・ビル」も僕の見方がまずかったのかも。いつか観直してみよう。

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コメント 8

きさ

面白いんですが、ラストがちょっと納得できなかったです。
全員、映画館に集めて死亡の方が良かったかな、というのと、まあこれはヤボですが、歴史をあっさり変えてしまうところが、、
メラニー・ロランはきれいでした。
でもアップになると顔に傷があったりするんですよね。
でも彼女の場合それさえも魅力に感じます。
by きさ (2010-08-21 07:52) 

ken

この映画のおかげで、ヒトラーは映画館でアメリカ人に殺された
…が、のちのち定説になったら怖いですねw
メラニー・ロランのおかげで、ダイアン・クルーガーがオバサンに見えちゃいました。
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-08-21 10:00) 

漣花

これ,面白くなかったら,お金返します
みたいなこと謳ってた映画ですよね。
そっか~面白かったのかー。
私,そこまで宣伝されると,面白くないから宣伝するのかと
思っちゃって・・・(笑)
私も観ようかどうか,すごく迷うと,人の評価を
鵜呑みにして決めてしまいます・・・なんでも自分で
みてみればいいんですよね。
by 漣花 (2010-08-21 16:05) 

ken

ちょっとグロですけどね。
僕は「キル・ビルVol.1」もルーシー・リューの頭頂を切るシーンさえなきゃ
いい映画だと思ってるんです。アレに似たことがここでもありますからw
それだけが好きじゃありません。あとはご自身でw
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-08-21 19:59) 

non_0101

こんにちは。
タランティーノ作品は好みが分かれますよね。
全体的には自分に向いていない作品かもと思いつつも、
迫力に圧倒されていました(^^ゞ
by non_0101 (2010-08-22 11:37) 

ken

そこまでにしなくてもいいのに、という描写が意外とあるんですよね。
好みはそこで別れるように思います。
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-08-24 00:28) 

movielover

たしかに「そこまでしなくても」と思っちゃうような、
タランティーノ節炸裂の作品でした。
でもそんなB級ぽさが彼の好きなテイストだったりして。
緩急の素晴らしさと伏線の作りこみ方はさすがでしたね。
クリストフ・ヴァルツが最高でした!
そしてメラニー・ロランも。
今後が楽しみな女優さんです。


by movielover (2010-08-24 21:28) 

ken

映画作りを知りつくしたオタク監督の、遊び心満載の映画って感じでしたね。
僕の中では、「タランティーノ復活!」を感じる1本でした。
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-09-03 20:00) 

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