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ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル(2011年・アメリカ) [2012年 レビュー]

原題:MISSION:IMPOSSIBLE-GHOST PROTOCOL
監督:ブラッド・バード 脚本:ジョシュ・アッペルバウム、アンドレ・ネメック

 「イーサン・ハント久しぶりだなあ」と思いながら自宅でブルーレイを観ていたら、エンディング間近で「あー、3作目の復讐してから観りゃ良かった」と思うシーンがあった。そこでストックDVDを確認してみたら、1作目と2作目はあるのに3作目がない。「どういうこと?」と思って今度は自分のレビューを検索して読んでみたら、思わず納得なこき下ろし方。「史上最低のアクション映画」だって。なるほどねー、それじゃ買わないよねー(笑)。
 これから観ようって人はせめて「M:I:Ⅲ」のストーリーだけは把握してから観た方がいいかも。今作。

 理由あってロシアの刑務所に収監されていたイーサン(トム・クルーズ)は仲間の手引きで脱獄に成功。新たな任務を与えられる。それは核テロを目論む“コバルト”という人物の情報を入手すること。そのためイーサンはクレムリンへの潜入を果たすが、そこで爆弾テロが発生する。イーサンは何者かの陰謀によってテロ容疑がかけられ、IMFから登録を抹消されてしまう。後ろ盾を失ったイーサンとそのチームは孤立無援の中で、コバルトに迫り、核戦争の危機に立ち向かう。

 まるで往年のジャッキー・チェンの映画を観ているようでした。
 「アクションの目玉を先に決めてから映画の体裁を整える」
 きっとこのスタイルで作られたものだと思います。
 ドバイにある世界一高い高層ビル、ブルジュ・ハリーファでアクションを撮る。まずはこう決めて、撮影許可を取り、とりあえずぶら下がったり、落ちてみたり、壁を走ってみたりしたんじゃないでしょうか。撮影の時点では脚本だって完成していなかった可能性があります。

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 この一連のアクションシーン、予告編を観たときはCGだろうと思ってました。
 ところがメイキングを観る限り、ほとんどが実写。トム・クルーズ以下俳優たちが命がけで撮ってます。CGで処理されたのは命綱のワイヤーを消す作業くらい。これには驚きました。一番驚いたのは高層階の窓を「外していい」って許可したビル側の判断でしたけど(笑)。

 純粋にスパイ映画としてどうか、となると「前作よりは良い」と言っておきましょう。
 「スパイ大作戦」ですから、突拍子もなくて都合のいいアイテムが続々出て来て、「そんなのありかよ」と悪態をつきたくなるのは事実です。でもそこは見て見ぬ振り出来なければ、本作を観る資格はありません。
 問題はそこではなく「骨子となるストーリーラインに矛盾や強引さは無いか?」ということです。
 これは正直言うと「あり」ます。もしかして3作目を復習してから観ると、余計にその強引さに気付いてしまうかも知れない。個人的には今回トムが率いるチームのバランスが良かったので、あまり文句も無かったのですが、冷静に振り返ってみたら「一部崩壊していたな」と。痛し痒しだなあ。
 
 これは映画館で観るに限ります。アクションの数々はカッコ良かった。
 でもDVDでも観た方がいい。写真のようなシーンをどうやって撮ったのか、メイキングで明かしてもらえるから。高所恐怖症には身の毛もよだつカットのオンパレードですが、一方でトムの本気度も分かります。やっぱりDVD
で映画を観る醍醐味ってメイキングだな、と久しぶりに思った作品でした。

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電人ザボーガー(2010年・日本) [2012年 レビュー]

監督・脚本:井口昇

 日活も「スゴイのに手を出したもんだなあ」これが正直な感想。
 とは言え、僕の世代には垂涎もののタイトルです。
 オリジナルは1974年から75年にかけてフジテレビ系列で放送された特撮ヒーローアクションで、主演はライダーマンを演じた山口暁さん。「電人ザボーガー」が放映されていた時期には、仮面ライダーX、仮面ライダーアマゾン、仮面ライダーストロンガー、ウルトラマンレオ、イナズマンF、マッハバロン、秘密戦隊ゴレンジャーなどが活躍していました。
 僕が「スゴイのに手を出したな」と思ったのはザボーガーがコテコテのB級ヒーローだったからです。なんたって、このビジュアルを観て下さいよ。

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↑このバイクが今風に言うとトランスフォームして、↑こうなるわけです。

 ムチャでしょ。and野暮ったいでしょ。
 「おーい、タイヤはどこに行ったんだよー」って子どもながらに思ってました(笑)。
 でも、この野暮ったい感じを今楽しもうと思って作ったんでしょうね。なんたって主演が板尾創路ですから。しかも演じているのは主人公の熟年期ですから。熟年期ってなんじゃそりゃ(笑)。

 本編は2部構成になっていて、1部は、天才科学者・大門勇(竹中直人)が遺したスーパーロボット「ザボーガー」と共に、悪のサイボーグ組織「Σ」と戦う秘密刑事・大門豊(古原靖久)の活躍を。2部ではその25年後。Σとの闘いでザボーガーを失い、失業者となった大門豊(板尾創路)の苦悩と、再びΣと決するまでが描かれています。
 まずは「青年期」と「熟年期」の2部構成にした点に製作陣のセンスを感じます。
 「熟年期」というアイディアは、オリジナルへのオマージュを一歩進化させたものと捉えていいでしょう。もし山口暁さんがご存命だったら、この手の作品の“お約束”としてゲスト出演していたはず(それはそれで観たかった)。しかしそれは叶わない中で出たアイディアが「熟年期」だったのではないかと思います。俗にいうリメイク作品は無数にありますが、このアイディアは唯一無二と言っていいでしょう。

 ただし作品としてはイマイチ(笑)。
 特に「青年期」における大門豊と敵のサイボーグが交わるようなエロティックな演出は気味が悪い。実はこれ同じ日活が手がけた「ヤッターマン」のアイディアをパクっているんじゃないかと思いました。「ヤッターマン」もこれ以上のエロ変態映画だったんですよね。ただあちらは櫻井翔を主演に据えたことと、三池崇史というビッグネームのおかげで、ただの「ド変態エロ映画」が「コンテンポラリー」と解釈されて大ヒットしたわけです。で日活はそれをさらに勘違いして「エロを放り込んでおけば大丈夫
」ってことになったんだろうなあ。そうとしか思えないクオリティの低さです。

 ザボーガーの「チェンジ」はCGがよく出来ていて不満ナシ。
 くだらないエロの要素さえなければ、もう少しまともに観られた気がするのに残念。
 でも僕と同世代の人は観てもいい。
 エンドクレジットにオリジナル版の映像が使われていて、チョー懐かしいです。

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コンテイジョン(2011年・アメリカ) [2012年 レビュー]

原題:CONTAGION
監督:スティーヴン・ソダーバーグ 脚本:スコット・Z・バーンズ

 タイトルはずばり「伝染」。
 潔癖性の人が観たらノイローゼになりそうな細かい視点が特徴的で、「ウィルスは如何にして広まって行くか」の一例を目の当たりにするディザスター映画。

 香港出張から戻って来た帰宅したベス(グウィネス・パルトロー)は夫・ミッチ(マット・デイモン)の目の前で昏倒し謎の死を遂げる。まもなく幼い息子も同じ症状で死亡。2人の他にも世界中で謎の死を遂げる人たちが続々と現れる。報告を受けた世界保健機関のレオノーラ(マリオン・コティヤール
)や、疾病予防センターのエリン(ケイト・ウィンスレット)が調査に乗り出すが、感染の広がりを止めることは出来ず、世界中がパニックに陥って行く…。

 放射能もそうなんですけど、ウィルスも肉眼では確認できないからこそ、「怖い」という面と、「知らぬが仏」という面がありますね。もしウィルスが可視化されたら、私たちの生活は今とは明らかにその様子を変えることでしょう。全員が「超潔癖症」になるのは必至です。
 たとえば【電車のつり革】なんか論外中の論外。【エレベーターのボタン】とか【銀行ATMのパネル】、【スーパーの商品】、【自販機から出て来る缶】、【セルフガソリンスタンドの給油ホース】、【公衆トイレのドアノブ】、【コンビニでもらう小銭のお釣り】、【バスの「とまります」ボタン】など、挙げたらキリがありませんが、これらはゼッタイに素手で触らなくなるでしょう。あとは【コンビニで立ち読み】もしなくなるでしょうし、【コインロッカーに荷物】も預けなくなるでしょうし、【アップルストアでマックブック】をいじったりもしなくなるでしょうね。
 とにかく普段の生活の中に無尽蔵にある“感染リスク”を考えさせられてしまう作品なのです。ただし「ウィルスの恐ろしさ」を描いたディザスター映画はこれまでにもあったわけで、それらとの差別化がどう成されているかが一番注目すべき点だと思います。

 ウィルス系ディザスター映画の基本はバイオハザード(生物学研究で使用される、あるいは使用によって発生する病原体)ですが、ソダーバーグはそこに変化を付けた。これが映画としての体裁はこの1点に支えられています。
 「最初の被害者となったベスは、いつウィルスに感染したのか」
 それは浮気相手から感染した可能性が高いと、遺された夫には非情な現実を一旦突きつけておいて、ここからソダーバーグは観客の意識を別のところへ誘導します。
 「なぜミッチは感染しなかったのか」
 ただしこれはドラマの縦軸となる登場人物を殺すわけにはいかない、という映画的な都合を優先したもので、巧く刈り取れていなかったのは残念。
 「ワクチンを作ることは出来るのか」
 ディザスター映画の定番プロット。さらには数に限りのあるワクチンを巡る人々の諍いも定番中の定番ですが、マリオン・コティヤールとケイト・ウィンスレットというアカデミー女優2人のおかげで、まずまず見応えのある展開をします。

 ポイントは映画の着地点です。
 ソダーバーグの巧さは最終のシークエンスに集約されていました。最後の最後にベスの感染経路が明らかになるのです。それがまた怖い。
 派手な映画ではありませんが、ぜひソダーバーグの手練手管を楽しんで下さい。

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八日目の蝉(2011年・日本) [2012年 レビュー]

監督:成島出 脚本:奥寺佐渡子

 原作を手にしたときにはすでに映画化が決まっていたので、かなり具体的な映像を思い浮かべながら読んだ。そして、この秀作をどうやって2時間程度に収めるのかと思っていたのだけれど、それそれは見事にまとめられていて、僕はまず奥寺さんの仕事に感動してしまった。

 原作は2部構成になっていて、前半は不倫相手の生後間もない娘を誘拐した野々宮希和子の逃亡生活。後半は4歳まで誘拐犯に育てられ、今は大学生になった秋山恵理菜の葛藤の日々が描かれている。 

 映画化に際しては、この2部構成すなわち時系列を放棄している。 
 希和子(永作博美)と恵理菜(井上真央)の章をクロスさせることで、映像作品だからこそ出来る、より劇的な演出を試みたのだ。これは大正解だったと思う。のちに恵理菜が辿る「逃亡の軌跡」では余計な説明を省くことが出来て時間の短縮になり、さらに風景の比較によって時の流れを表現することも出来て、まさに一石二鳥だった。
 しかしこの作業は並大抵の苦労ではなかったと思う。原作の何を活かして、何を落とすのか。希和子と恵理菜のカットバックはいつどのタイミングで行うのか。考えただけで脳みそが沸騰しそうな作業である。

 本作で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を獲った井上真央は、授賞式で「何度も成島監督から逃げたいと思いました」とスピーチしていたけれど、成島監督はきっと“粘る人”だったんだろう。その粘りを垣間見られる重要なシーンが序盤にある。
 不倫相手の家に忍び込んだ希和子が、生まれて間もない恵理菜を抱き上げるシーン。
 希和子は「ただ子供の顔が観たかった」だけなのに、一転「連れ去ることを決意する」極めて重要なシーンでもある。
 成島監督は「泣いている恵理菜を抱き上げる希和子。やがて希和子にあやされて笑う恵理菜」という一連を永作博美と赤ん坊の2ショットで、しかも1カットで撮った。この1カットのために監督は相当「粘った」んじゃないかと思う。
 ト書きにあっただろう「笑う恵理菜」は、普通に考えれば赤ん坊を1ショットで撮って、インサート処理する方が楽だ。しかし成島監督は「永作博美の顔を見て笑う赤ん坊」という絵にこだわっている。それは希和子に感情移入させるためだ。
 恵理菜と希和子に血のつながりは無い。
 恵理菜役の赤ん坊と永作博美も赤の他人である。
 つまりこの2組の関係性は同一である。
 ならば「原作通り恵理菜と希和子の間には何者も介入すべきではない」と成島監督は考えたんじゃないだろうか。介入とは赤ん坊を1ショットで撮り、インサート処理するという映画の文法を用いることである。
 カメラは2人の関係を断つことなく客観に徹してひたすら粘った結果、幸運なことに“映画の神様”が降りて、赤ん坊の絶妙な笑顔を収めることに成功する(ここでの永作の表情も素晴らしい)。こうして観客は希和子への感情移入を果たすのだ。
 仮に赤ん坊の顔を1ショットで撮ってインサート処理していたなら。観客は希和子をただの誘拐犯として見てしまう可能性があった。そして原作の意図は伝わることなく、多くの読者を落胆させたことだろう。
 この1カットこそが、映画「八日目の蝉」を支えているのだ。

 原作と異なるラストシーンにもいろんな意見があるようだ。
 僕自身は原作よりもより「赦し」を意識したラストに不満はなかった。
 また現実的なことで言うなら、永作博美の老けメイクは成立しなかったとも思う。それでなくとも童顔なのに(こんな41歳、見たことない)永作博美にどんなメイクを施したとしても映画を壊す可能性があった。もちろん原作通りのラストも観てみたい気持ちはあったけれど、これはこれで満足している。
 ただし、恵理菜を奪われた恵津子(森口瑤子)の苦しみには深く入り込めていなかった気がしないでもない。子を持つ親として原作を読み、僕は恵津子の背負った“十字架の重さ”にも同情していたからだ。
 いずれにしても考えさせられるのは「子どもにとって必要なものとは何か」である。その答えは「愛情」以外に無いが、子どもの一生を左右しかねない未就学期間において親の責任は限りなく重大だと再認識させられた。

 永作博美と小池栄子の芝居が絶品。
 小豆島のロケーションが美しく劇場で観る価値はあったと思う。
 佳作。

八日目の蝉 通常版 [DVD]

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八日目の蝉 (中公文庫)

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バトルシップ(2012年・アメリカ) [2012年 レビュー]

原題:BATTLESHIP
監督:ピーター・バーグ 脚本:ジョン・ホーバー、エリック・ホーバー


 この作品のネタ元はコレだそうです。

 僕の世代にはすごく懐かしい(でもフォーマlP57VtuiLWK6hBmbdoexzDl72eJkfbmt4t8yenImKBVaiQDB_Rd1H6kmuBWtceBJ.jpgットは健在で、メディアを変えて今なお現役の)「戦艦ゲーム」、いわゆる「BATTLESHIP」。
 よくもまあこんなものまでネタにしようと思うよね、ハリウッドも。どこまでネタに困ってるんだか。
 でも海軍同士の戦いではありません。
 海軍対エイリアンです。やれやれ。
 有史(映画誕生)以来、一体何度目のエイリアン来襲なのでしょうか。もうそろそろ地球もエイリアンに侵略されてもおかしくない頃じゃないっすかね?

 それでもまあ設定に工夫がしてあって、作り物にしてはよく出来てるってケースも過去には多々ありましたからね。それで僕も男(バカ)ですから、こういうのは一応観ておこうかなと思っちゃうんですよ。で、どうだったかというとコレまた信じられない映画でした。
 完全に脳みそ筋肉SFバカ映画。救いようもありません。
 そういえばこの映画の試写状に「◯月◯日まではブログ、Facebookなどでのレビュー掲載はお控え下さい」なんて書いてあったなあ。あれってネット上に酷評が回ることを恐れた映画会社の対策だったのか知らんと、ついつい思っちゃう。だってホントに「リアリティ・ゼロ」なんだもん。

 アメリカを始めとする世界各国の海軍がハワイ沖に終結し、大規模な軍事演習を行おうとしていたとき、沖合に正体不明の物体が姿を現す。それはエイリアンの母船だった。
 エイリアンは外部からの接触を拒絶するかのように、母船の周囲にシールドを張り巡らせる。そのシールド内にいたのは数隻の駆逐艦だった…。

 このあとエイリアンと人間の闘いが延々続きます。ただそれだけです。
 主人公であるアメリカ海軍の問題児アレックス(テイラー・キッチュ)が、提督(リーアム・ニーソン)の娘と付き合ってて、結婚の承諾をもらおうとしているというサブネタはありますが、そんなものはどうでもよろしい。
 とにかくエイリアンの背景が何も描かれずにドンパチやって、しまいにゃ戦艦ミズーリまで動かしちゃうからね。これはもやはプロパガンダ映画ですよ。「攻めて来た連中は敵」っていう乱暴なロジックで映画は最後まで突っ走るしね。「宇宙戦争」じゃあるまいし、今時もうこんなプロット通用しないでしょ。いい加減にしてよ。

 浅野忠信。
 意外と良かった。いいポジションだったし、作品の中身は別として、これがいいステップになるんじゃないでしょうか。でも前作は「マイティ・ソー」だったしなあ、超B級映画の常連ってことにならないといいな。
 この映画、劇場で観る価値もクソもありません。そもそも観る価値がない。
 それでも観に行く男の中の男(バカ中のバカ)のアナタにお知らせ。長いエンドクレジットの最中に席を立たないように。ラストにうんざりするシーンがオマケでついています(笑)。


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マネーボール(2011年・アメリカ) [2012年 レビュー]

原題:Moneyball
監督:ベネット・ミラー 脚本:スティーヴン・ザイリアン、アーロン・ソーキン

 年俸総額がニューヨーク・ヤンキースの3分の1しかない貧乏球団が、セイバーメトリクス理論(野球を統計学的に分析すること)を取り入れてチームを編成し、2002年には全球団中最高のシーズン103勝をマークするアスレチックスのGMビリー・ビーンを主人公にした実話。

 未知数の若者を手間暇かけて主力選手に育たのに、球団がビンボーであるばかりに、選手を金で釣られてしまうといえば、「我が広島東洋カープのことじゃないか!」といまさら気付いて思わずワナワナした観客もいたんじゃないだろうか。
 FA制度が導入されてから広島を出て行った選手は川口和久(読売)、江藤智(読売)、金本知憲(阪神)、新井貴浩(阪神)、黒田博樹(ドジャース/現ヤンキース)の5人。個人的に江藤はいらんかったけど、2007年に黒田と新井が出て行ったときは「あー、オレが生きている間にカープが優勝することは無くなったなあ」って立ちくらみするほどショックだった。
 でも今日この映画を観て、ちょっと勇気が湧いた。特に今タイミングよく“極悪金満球団”読売が最下位に喘いでいるから、胸のすく思いだった。チーム編成を上手くすれば、カープにだって優勝の目はあるってことだ!(と信じたい)。


 僕は単純にGMという仕事の中身を初めて知った(それだけでも観た甲斐があった)。
 GMって多分「財布を預かっている人なんだろう」くらいに思っていたんだけど、オーナーから雇われていることを忘れれば、GMこそがすべての権限を持つ雇用者であり、彼以外は非雇用者ということなんだね。
 劇中チーフスカウトにクビを言い渡すシーン(気持ちよかった)があったり、契約年数問題で監督ともめたり(リアリティがあって面白かった)するんですけど、そこまでの権限が与えられているのは、GMが最終的な“責任の所在”であるからなのね。やっぱり“責任の所在”って大事だな。誰も責任を取らない組織、団体はそりゃ腐って行くわ。

 「金で人生を決めて失敗した男が、以来金では人生を決めないことにしていた」というテーマはとても良かった。孤高のGMを演じるブラッド・ピットもハマっていて見応えがあったし、ビリーがセイバーメトリクスを取り入れるきっかけを作り、のちにビリーの相棒になるピーター・ブランドを演じたジョナ・ヒルも良かった。あ、そうそう監督役のフィリップ・シーモア・ホフマン。坊主頭だったせいで最初は誰か分からなかったんだけど、いいカンジに腹の出た初老の監督っぷりで、これもとても良かった。
 とまあ褒めてばかりなんだけど、今になって思えば何かひとつパンチが足りなかったような気もする。それはきっとビリー・ビーンが極限まで追いつめられていなかったからじゃないか。ビリーとピーターはすべてのアゲインストをモノともせず、その風向きを2人で180度変える、という部分のカタルシスは欠けていたかも知れない。
 ただ、与えられた仕事に全力を尽くす男の生き様は楽しめた。
 冷静に考えたとき、このビリー・ビーンを雇う金もカープにはないだろうなと思ったら急に悲しくなったけど(笑)。
 試合の再現シーンが大したことないので、ホームシアターで充分。

マネーボール [Blu-ray]

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モテキ(2011年・日本) [2012年 レビュー]

監督・脚本:大根仁

 世間でやたらに「面白い」という評判が立っていたので、「どんだけ〜(古いね)」と思いながら観てみたが、なるほど確かに面白かった。
 テイストは完全に宮藤官九郎。テレビマン監督による編集のテンポも歯切れよく、観客に何も考えさせずに「モテキ」の世界へと引きずり込んで行く。特に序盤30分のロケットスタートは見事だった。

 31歳セカンド童貞の藤本幸世(森山未來)に2度目のモテキが来ると言うハナシ。
 ポスターなどのアートワークを観る限り、長澤まさみ、麻生久美子、仲里依紗、真木よう子の4人からモテるのかと想像するが、実際には長澤まさみと麻生久美子の間で揺れる森山未來という図式である。
 さて本作最大の見どころは“エンジェル”長澤まさみだ。
 言っておくが“小悪魔”ではない。小悪魔は狙ってやっているが長澤まさみは、あ、いや、長澤まさみが演じた松尾みゆきは狙ってないのだ。あ、いや「狙ってないように見せることが出来る」のだ。「だったら小悪魔どころか悪魔じゃないか」という御仁もおられるだろうが、そんなテクニックを見透かせないおバカさんたちにとっては“エンジェル”以外の何者でもない。いやぁ、こんなことが分かるようになるなんてオレも大人になったもんだ。
 ただ裏を返せば、長澤まさみはこれを狙ってやっている(演じている)のだから、はやり流石なのだ。そんな彼女が「女を武器」にし出したら、これはもう誰も敵わないと思う。もしかしたら長澤まさみは「モテキ」で一皮むけて、最強の若手女優になったかも知れない。オレはついて行くぜ。

 長澤まさみが突き抜けているから、誰からもあまり評価を聞かなかったけれど、実は麻生久美子もスゴく良かった。彼女は俗にいう「重い女」を演じたのだけれど、軽い女も演じられる彼女の「重い女」を観て、やっぱりこの女優は只者じゃないなと思った。「朝ご飯作ろうか?」という重いセリフも抜群でした。
 そして女癖の悪い中年を演じさせたら、今この人の右に出る人はいないだろうリリー・フランキー。いいなあ、オレもこんな中年になりたかったなあ(笑)。

 恋愛ドラマだけに、ちょっとマジメな展開も避けられなくて、そこで中だるみしたのが残念。
 個人的には幸世が散々な目にあって、男としては成長するんだけど、でも当分はセカンド童貞なんだろうなあ、って思わせる展開で終わって欲しかった。まったく残念(というか癪に障る)。
 今の時代の「恋愛映画」という意味でも観る価値はある。
 “エンジェル”長澤まさみを十二分に堪能するためには、劇場での鑑賞がベストだった。くそう。

モテキ Blu-ray豪華版(2枚組)

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監督失格(2011年・日本) [2012年 レビュー]

監督:平野勝之 プロデュース:庵野秀明

 2005年に34歳の若さで急逝した女優・林由美香のドキュメンタリー。
 監督の平野勝之は一時期、林由美香と不倫関係にあり、1997年にアダルトビデオ作品「東京〜礼文島 41日間自転車ツーリングドキュメント わくわく不倫旅行 200発もヤッちゃった」を発表。のちにこの作品を再編集した「由美香」が劇場公開され話題になったのは僕も知っていた(但し未見)。

 さて本作はぴあフィルムフェスティバルの常連人気監督だった平野勝之が、当時人気絶頂にあった林由美香を主演に初AV作品を撮ってから、今日に至るまでのドキュメンタリーになっている。言うなれば林由美香のドキュメンタリーというより、林由美香を喪ってしまった平野勝之のドキュメンタリーである。

 正直言って僕はこの記事を書き始めるのに3日かかってしまった。
 「放心した」というのが一番正しいと思う。
 放心した理由は2つある。
 ひとつは、林由美香が亡くなっていた現場でカメラが回っていたこと(後述するが、ここでカメラを回しっ放しにしたのはプロの仕事だと思った。どんな現場でも撮るべきか否か悩んだときは絶対に撮るべきなのだ)。誤解のないように言っておくと、遺体が映っているわけではない。林由美香が亡くなっていた現場に踏み込むシーンがあって、平野勝之監督が林由美香の遺体を発見するという衝撃的な展開はある。
 僕が放心したのは同行した由美香ママ(ラーメンチェーン「野方ホープ」の社長)の姿だ。それは人が一生に一度見るか見ないかのホンモノの「慟哭」だった。観客はどうすることも出来ない。ただ由美香ママの慟哭にうろたえるのみである。ここではおそらく観客全員の心拍数が100を超えるだろう。

 放心したもうひとつの理由は、「大事な人を喪う」ことで心のバランスを崩してしまう実例を目の当たりにしたからだ。言うまでもなく平野勝之監督のことだが、実は林由美香が亡くなってから本作に取りかかるまでの5年間、平野監督は一度も泣いていなかったのだと言う。観ればそれは「心が死を受け容れようとしない」状態だったことが分かる。本作の仕上げにあたって平野監督はカメラの前で「由美香と別れたくない」と号泣するのだ。
 意外と多くの人が、自分にも思い当たる節があるのではないかと思う。僕にもあった。だから自分のことと重ねて「別れたくない」人を想い、放心したのだ。

 これは「喪失」と「再生」の物語である。


 「監督失格」のタイトルは、先の「わくわく不倫旅行」を撮っている最中、2人でケンカをしたときにカメラを回さなかった平野に対して、林由美香が言った「監督失格ね」から来ている。
 あの場所でカメラを回しっ放しにしたのは、「後でまた由美香に『監督失格』と言われないように」、つまり「願わくば蘇生して欲しい」という平野監督の一縷の望みだったような気がしてならない。

 これは映画監督の渾身の仕事だからこそ、映画館で観るべき。
 日本のドキュメンタリー映画史に名を残す傑作。

監督失格 Blu-ray(特典DVD付2枚組)

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ツレがうつになりまして。(2011年・日本) [2012年 レビュー]

監督:佐々部清 脚本:青島武 原作:細川貂々

 実録コミックエッセイを原作とした作品。
 実写化は2009年に放送したNHKのドラマ以来2度目。

 真面目で几帳面なサラリーマン髙﨑幹男(堺雅人)は、ある日突然妻の晴子(宮﨑あおい)に「死にたい」とつぶやいた。体調不良を風邪か何かと晴子は思っていたが、病院での診断結果は「うつ病」。原因は仕事上のストレス。そこで晴子は“ツレ”に会社を辞めるよう提案するのだが…。

 想像していた以上にストレートな「うつ体験記」で、「多くの人にうつ病のことを知ってもらいたい」という想いに満ちた、いい作品だったと思います。
 たとえば、
 うつ病は誰もがかかる可能性があること。
 本人も周囲もうつ病と気付かないケースがあること。 
 治療のためには周囲の協力が不可欠であること。
 そして、治すためには「がんばらない」こと。
 など基本中の基本情報が「ツレの場合」として描かれています。
 ただ基本情報であるが故に本作は、一歩間違うと“うつの啓蒙ビデオ”になってしまう可能性がありました。実際その境界線を何度も彷徨います。しかしギリギリ踏みとどまって、ちゃんと“見世物(ドラマ)”となり得たのは主人公の2人、宮﨑あおいと堺雅人の芝居のチカラです。

 まずは堺雅人の芝居が絶品でした。
 うつ病患者をどう演じればよいか、その芝居に正解は無いと思います。
 そこで堺雅人は「うつ病を知ってもらう」という大テーマに則って“分かり易さ”を優先し、多くの人に共感を得られる芝居を目指したのだと思います。
 そのためにまず減量をし、ひ弱さを獲得することにした。姿勢はやや猫背で通し、頬骨筋を挙げて顔に皺を作り、あごを引いて目線を落とす。セリフのボリュームは通常よりも2割ほど抑えて、抑揚を排除する。こうして観る側に分かり易い“ツレ”が完成しますが、ここまで作り上げるのにも、ずいぶんと時間がかかったと思います。これから先、うつを演じる役者は「本編の堺雅人を参考にした方がいい」とアドバイスしたくなるほど素晴らしかった。

 対する宮﨑あおいの芝居はまるで“横綱相撲”。観ていて本当に安心できる芝居でした。
 片方の“ツレ”が不安定であるから、バランスから言っても“ハルさん”には安定感が必要だったと思います。それを宮﨑あおいは「隙なく演じる」ことで最低限の安定感を確保した。
 不安そうな顔、ホッとした顔、慈しむような顔、どれをとっても宮﨑あおいにしか出来ない、そしてこんな奥さんが隣にいたら、きっと“ツレ”のうつも完治するだろうと安心出来る表情。正直言って惚れ惚れしながら観てました。こんなこと宮﨑あおいでなければ出来ません。さすが篤姫(笑)。

 脚本について。
 うつ病と付き合いのある人たちにも配慮した優しい言葉に満ちていたと思います。
 先にも挙げた「がんばらない」はもちろん、僕が気に入ったのはこんなセリフ。ハルさんが行きつけの骨董屋さんで明治時代に作られたニッキ水のビンを眺めながら、こうつぶやきます。

 「割れなかったから今ここにある。割れなかったことに価値があるってことか」

 僕はこれを「うつ」と「自死」を関連づけたセリフだと解釈しました。
 日本は先進国の中でも稀な自殺大国です。自ら死を選んでしまう人が年間3万人以上もいる現実。これはうつと無縁ではないと言われています。とにかく生きていれば、その先にきっといいことがある。生きているだけでそれだけで価値がある。そんなことを訴えるシーンとセリフだったと思います。

 もうひとつ僕が気に入ったセリフ。
 ハルさんが、自宅を訪ねて来た母親(余貴美子)にこんなことを言います。

 「私最近思うんだ。ツレがうつ病になった原因じゃなくて、うつ病になった意味は何かって」

 後ろ向きじゃなく、前向きないいセリフです。
 最後は先日から始めた新たな評価です。
 「劇場で観る価値のある映画か否か」
 宮﨑あおいと堺雅人のキャスティングはテレビドラマでは成立しなかったでしょう。だから映画化されたことは良かった。美術監督若松孝市さんの作った自宅セットも素晴らしい。ただDVDで充分だと思います。どうせならうつの人にも周囲に気兼ねすること無く、自宅で楽しんでもらえればと思いました。

ツレがうつになりまして。 スタンダード・エディション [DVD]

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  • 出版社/メーカー: キングレコード
  • メディア: DVD

ツレがうつになりまして。 (幻冬舎文庫)ツレがうつになりまして。 (幻冬舎文庫)
  • 作者: 細川 貂々
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2009/04
  • メディア: 文庫

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探偵はBARにいる(2011年・日本) [2012年 レビュー]

監督:橋本一 脚本:古沢良太、須藤泰司

 「探偵」という題材はフィクション・エンタテインメントの王道だ。
 ホームズ、ポワロ、マーロウ、スペード、明智小五郎、金田一耕助、浅見光彦etc…。世界中に一体何人の探偵がいるか知らないが、この手の作品に触れたことがない人はいないと思う。
 多くの作家が「探偵」を起用する理由は、組織に縛られないアウトサイダーという立場を活かして、どんな場面でも書き手の思うがまま動かすことが出来るからだが、一方でこの自由度をどう活かすか(キャラクター、舞台、事件などの設定)が作品の善し悪しを決める“諸刃の剣”でもある。

 本題に入る前にもう一席。
 僕はかれこれ8年も映画のレビューを書いてるけれど、先日「STAR WARS エピソードⅠ/ファントム・メナス3D」を観たとき、映画を評価するにあたって、僕はとても重要な“物差し”を忘れていたことに気が付いた。それは「この映画は劇場で1800円払って観る価値があったか否か」という“物差し”だ。
 基本中の基本だった。だって「映画」なんだから。

 ということで本題。
 その“物差し”で言うなら、本作は「映画館で観る必要のない映画」だった。
 何と言っても、仕上がりとして2時間ドラマの域を出ていない。カット割りもカメラワークもいかにもテレビ的で、劇盤の出来もイマイチ。もちろん2時間ドラマの企画だったら、小雪も松田龍平も出てないだろう。だけど大泉洋の主演にこだわるなら(プロデューサーがそう喋っていた)2時間ドラマで充分。ましてや小雪がキャスティングされたおかげで「オチが読める」というリスクまで背負うことになるのだから、もはや映画でやる意味すら分からなかった。
 「推理小説実写化の難しさは、まずキャスティングにあり」の典型だったと思う。

 その大泉洋の芝居も観ていられない。
 バラエティで名を馳せた人で、かつ舞台の人である。行間を読ませるような芝居には長けていない。大きなスクリーンで観たとき、彼の過剰な芝居はよりオーバーに、早いハナシがクサい芝居に見えたことだろう。だから映画館で観るまでもないと僕は思う。
 一方で松田龍平の芝居は劇場向きだと思った。
 まず父・優作譲りの低音の声がいい。これは音響システムの整った劇場で聴きたかった(と言いつつ僕はこの映画をヘッドフォンで聴いたので、それなりに堪能した)。また小さな芝居、特に細かな表情も劇場で観るとより楽しめたかも知れない。

 僕は本作を観て、ガイ・リッチーの「シャーロック・ホームズ」がなぜあそこまでアクション映画になったのか、の理由が分かった。単なる謎解きカタルシスだけでは、劇場に客を呼べないからだ。
 日本の探偵映画を観て、ハリウッドの探偵映画の謎が解ける。
 なかなかいい推理が出来たかも。

探偵はBARにいる 通常版 [DVD]

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  • 出版社/メーカー: アミューズソフトエンタテインメント
  • メディア: DVD
探偵はバーにいる (ハヤカワ文庫JA)

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  • 作者: 東 直己
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1995/08
  • メディア: 文庫

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