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ハルフウェイ(2008年・日本) [2012年 レビュー]

監督・脚本:北川悦吏子

 ここのところ恋愛映画を観ていないことに気付いて、ハードディスクに録り溜めていた本作を観る。これを録っておいた理由は岩井俊二系だから。岩井俊二はいつかおさらいしないといけないな、と思っていて、他にも「リリィ・シュシュのすべて」も録ってある。
 本作は公開当時、北川悦吏子に監督をやらせた理由がよく分からず、がんばって想像しても大した理由は思いつかなかったので、僕は結果これをスルーした。そんなことより「オマエ(岩井俊二)撮れよ」って思ってたし。でも食わず嫌いだった。僕はこの映画、すごく好きだ。

 北海道の高3カップルの物語である。
 ヒロ(北乃きい)は同じ学校のシュウ(岡田将生)に長く片想いをしていたが、ある日思いがけずシュウから告白され、2人は付き合い始めることに。ヒロは地元の大学に進学するつもりだったが、シュウは早稲田大学への進学を希望していた。ヒロはそれを本人からではなく友達から聞かされ、シュウに不信感を募らせる…。

 僕がこの映画を、というよりも監督・北川悦吏子を好きになったのは、オープニングから約12分後。ヒロとシュウが付き合う証しの「握手」をするシーンで、2人が照れくさそうに手を離したあとの“カメラワーク”が一番のポイントだった。
 北川悦吏子は握手のあとでカメラを180度パンさせたのだ。
 場所は通学路脇の河原。特に何かあるでもない場所を180度くるりと見せた理由を僕は、「想いが通じた瞬間から、何気ない風景までも美しく見える」恋愛マジックの表現と見た。
 僕はこのカット一発で「やられた」と思った。少なくとも僕が観て来た恋愛映画の中では、今まで誰もやっていないカメラワークだったからだ。
 コンテに関して岩井俊二のアドバイスは相当あったと思う。それを差し引いたとしても、要所要所でカメラ位置は絶妙だった。一言でいうならカメラが「2人に寄り添っている」のだ。
 実は途中までは「舞台でもやれる脚本だな」と思って観ていた。ところが演者との絶妙な距離感を保つカメラ位置に気付いて「映画でなければ表現しきれない脚本だった」と思い直した。
 これはヒロとシュウの言葉にならない“息づかい”を感じる映画である。
 僕はこの作品から、映画と舞台の違いも教えてもらった。その違いとは「観客の立ち位置を自由に変えられるか否か」だ。映画芸術のポイントはここにあると思った。

 北乃きいが素晴らしい。
 当時17歳だった彼女にとっては、実に良いタイミングで、良い作品に出会い、良い瞬間をフィルムに収められたと思う。観客の世代によって女性ウケは異なるかも知れないけれど、僕には若かりし頃を思い出させる“可愛らしい同級生”だった。岡田将生と、同級生役で出た仲里依紗と溝端淳平もマル。対立軸がヒロとシュウの2人以外に無かった脚本もマル。とにかく2人に集中した85分が二重マルだった。
 ありそうでなかったシンプルな恋愛映画。観客に委ねた結末もマル。

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奇蹟/ミラクル(1989年・香港) [2012年 レビュー]

原題:奇蹟/MIRACLE
監督:ジャッキー・チェン 脚本:エドワード・タン、ジャッキー・チェン

 1930年代の香港。
 仕事を求めて田舎から都会へ出て来たコウ(ジャッキー・チェン)は、詐欺師のカモにされて無一文になってしまう。そこへ通りがかった花売りの老婆からバラを一輪買った瞬間から、不思議な幸運が舞い込むようになる。
 コウはマフィアのボスを偶然助けて、その後継者にまでなってしまう。以来、出かける際には老婆からバラを買い続け、命を落としそうな場面も偶然切り抜け、事業も成功、恋人も出来て、まさに順風満帆だった。
 ところがバラ売りの老婆自身には困ったことが起きようとしていた。上海で暮らす一人娘が恋人とその家族を連れて会いに来ると言うのだ。相手は大富豪の家族。老婆は娘に「再婚して今は裕福に暮らしている」と手紙を送っていたが、実は一人で貧しい生活を送っていた。それを知ったコウは老婆のためにある大芝居をうつことにする…。

 観てる途中から、「どこかで聞いたようなハナシだな」と思っていたら、これはフランク・キャプラの名作「ポケット一杯の幸福」(原題:Pocketful of Miracles)のリメイクなのだそうです。これがジャッキーのオリジナル脚本なら出来過ぎだなと思っていたので、そうと知ってひと安心(笑)。というのも、序盤コウがナイトクラブの経営に乗り出すシークエンスのモンタージュが、「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」(1984)のオープニングに激似で、その後のストーリーも何かのパクリだったら相当悲しいな、と思って観ていたからです。
 ジャッキー以下、ギャングや詐欺師たちが集まって上海の富豪一家をダマす展開が作品を通しての見せ場。ただ切れ味はイマイチだったかなあ。ジャッキーのアクションが「ダマす」ための一連ならまだしも、完全にアクションとして独立したシークエンスになっていたのは、(それを客が求めるのだから仕方ないにしても)ちょっと趣旨が違うんじゃないかなと思いました。カッコ良かったけどね。

 細かいことで気になったことが2つ。
 ひとつはジャッキーが意外とスタントマンを使っていたこと。その理由はエンドクレジットのNG集を観たら分かりました。ジャッキーは人力車を使ったアクションシーンで、結構大きなケガしてるんですね。そのための代役だったようです。ただ他のシーンでも少なくとも2度は代役を使っています。調子が悪かったのか、そろそろ楽させろなのか、真意は分かりません。
 もうひとつはヒロインのアニタ・ムイが全然美人じゃないこと。毎度言いますが、ヒロインが可愛くないと本当にへこみます。ついでに言うと当時の香港のアイドル、グロリア・イップも言うほど可愛くなかったんだよね(笑)。

 ちなみにジャッキー。自分の作品の中では本作が一番のお気に入りなのだとか。
 ま、確かに悪くはないです(笑)。

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プロテクター(1985年・香港) [2012年 レビュー]

原題:THE PROTECTOR/威龍猛探
監督・脚本:ジェームズ・グリッケンハウス

 「バトルクリーク・ブロー」に次ぐジャッキー・チェンのアメリカ進出第2弾となる作品。
 これは存在そのものから知りませんでした。
 調べてみたら日本での公開が1985年6月。とすると僕は23歳で、この時代は「映画を観る暇があったらとにかく寝たい」ってくらい忙しい時代だったのと、なんたってビンボーだったので映画館で映画を観るなんてゼイタクは出来なかったんですよね。レンタルビデオ屋はすでにあったと思うけれど、まだ1泊2日で1,000円なんて設定だったりして、映画観て腹が膨れるでもなし、「1,000円あったらメシ食うわ!」という時代でもあったので、今回が初見となりました。

 Wikiによると本作にはグリッケンハウス版とジャッキー版があるのだそう。
 「ダーティハリー」のような作品を目指していたグリッケンハウスと、ジャッキーは撮影当初から反目し合っていたらしく、完成した作品に納得しなかったジャッキーが、アジア圏で公開する別バージョンを自費で制作し、いま日本でDVD化されているのは、そのジャッキー版なんだそうです。
 ジャッキーの気持ちは痛いほど分かります。
 「バトルクリーク・ブロー」で失敗し、酷評された後のアメリカ進出第2弾ですから、これで下手を打ったら自分のキャリアに大きく影響するという危機感はあったでしょう。自腹で作り直すなんてハリウッドじゃまるで考えられない事です。ただハリウッドからすると、「あの香港ヤローは何かと面倒くさい」という印象を強くしたことでしょう。本作でも結局ハリウッド進出成功とならなかったのは、こういった一連の行動のせいもあったんじゃないでしょうか。
 ただ僕が思うに一番の問題はプロデュースの詰めの甘さ。その責任はレイモンド・チョウにあると言わざるを得ません。たとえば制作元ワーナーとの出資比率はどうだったのか。監督のキャスティングに関してはどこまで介入したのか。チェックしたい点はいくつもあります。でも「ハリウッド進出の2度目のチャンス」にのみ目が眩んで、ワーナー側の要求をあらかた呑んでしまったんじゃないかという気がしないでもありません。ジャッキーをコントロール出来ていないのも問題です。
 結局ジャッキーとレイモンド・チョウは本作でもハリウッド進出に失敗し、この10年後の「レッド・ブロンクス」まで時間を無駄にしてしまうわけですから、なんとももったいないハナシだと思います。85年(当時ジャッキー31歳)にハリウッドで成功していたら、ジャッキーのフィルモグラフィーは今とは大きく変わっていたことでしょう。

 本作がイマイチなのは、NYPDの刑事という設定でありながら、舞台を香港に持って来たことです。ワーナーもそれを望んだのかも知れませんが、僕からすると「井の中の蛙大海を知らず」になっているなあと。香港出身の若者がニューヨークで刑事になっていること自体、都合が良すぎる設定なんですから、なぜそうなったのかという背景をストーリーに盛り込み、観客を納得させる必要があったと思います。
 少なくともアメリカの観客は「コイツもハリウッドで成功したいんだろうなあ」とも思って観ているわけですから、主人公とジャッキーの背景はどこかでリンクさせるべきなのです。なのに活躍の舞台を香港に持って帰ってしまった。この展開には僕自身ガッカリしました。

 とすると、ハリウッドはジャッキーをどうしようと思っていたのか。
 グリッケンハウス版が俄然観たくなって来ました。それは「成龍ジャッキー・チェン アクション・ヒストリーDVDBOX」でしか観られないのだそう。観る機会ないかも(笑)。

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クレージーモンキー/笑拳(1978年・香港) [2012年 レビュー]

原題:笑拳怪招/THE FEARLESS HYANA
監督・脚本:ジャッキー・チェン

 ジャッキーの初監督作品。
 初めて監督をするに至った理由は、ジャッキー自身が設立したプロダクションの第1作だったからでしょう。しかもこの直前に作られた「蛇拳」「酔拳」のヒットで、ジャッキー自身「これ」と方向を確信したからだと思います。本作からは、ロー・ウェイの元で燻らせていたうっぷんをとにかく爆発させたい、という想いもビシビシ伝わって来ます。
 監督デビュー作としては「蛇拳」「酔拳」の監督、ユエン・ウーピン(のちにウォシャウスキー兄弟のオファーを受け、「マトリックス」の武術指導を行う人物)の影響が大きく、老師と未熟な若者という設定もしかり、クライマックスの対決シーンのカメラアングルもしかり、笑いの作り方だけはまだまだですけど、良い意味でユエン・ウーピンを“吸収”した形になっています。

 清朝末期の広東。お調子者のシンロン(ジャッキー・チェン)は祖父(ジェームズ・ティエン)から拳法の手ほどきを受けているが、「人前では決して見せるな
」と言われていた。ところがある日シンロンは、金に目がくらんで町道場の用心棒を引き受けてしまう。そして、そのワザを見た者の中に武術家を取り締まろうとする政府に雇われた暗殺者がいた…。

 実の祖父が最初の師匠。ジャッキーとジェームズ・ティエンは永年手を合わせて来ただけあって、おそらく初の肉親を演じたのだと思いますが、実に息のあったところを見せています。
 祖父はやがて暗殺者によって殺されてしまい、祖父の弟弟子にあたる“八本足の麒麟”と呼ばれる老人が、2人目の師匠としてシンロンを支える役目を果たします。
 コレ、先の2作のプロットにちょっとひねりを加えた脚本になってますが、単に笑わせるだけでなく泣かせる要素を入れた点こそ本作の注目すべきポイント。これは僕が思うに、ロー・ウェイに押し付けられた「第二のブルース・リーを目指す」という路線との決別であったように思います。そして「ジャッキー・チェン」という俳優のイメージを再構築したかったんじゃないかと。
 喜怒哀楽が激しく、人情味に溢れ、愛嬌もあって、それでいて強い。
 となると監督第一作目で「笑拳」という拳法を創造したのも腑に落ちるんです。
 ジャッキーはこのあと(おそらく)猛勉強して監督としての力を付け、やがて傑作「プロジェクトA」を作るのですから、そのスタートラインにたった作品と言う意味でも、本作は観る価値があるでしょう。
 ちなみに「醒拳」で使われた別の作品のフィルムとは、この「笑拳」でした。ラストショットが全く一緒だったのでビックリ!。マニアックな方は両方合わせてどうぞ。「醒拳」のDVDジャケット写真だって「笑拳」の1カットだし(笑)。

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ジャッキー・チェンの醒拳(1983年・香港) [2012年 レビュー]

原題:龍騰虎躍/Fearless HyenaⅡ
監督:チェン・チュアン

 根がマジメなもんで、もうちょっと続きます。このシリーズ(笑)。
 それにしても本作は映画史上、稀に見る奇妙な生い立ちの1本です。
 主演俳優が亡くなったわけでもないのに、そっくりさんによる追加撮影が行われていたり、別の作品のNGフィルムを流用して完成させた、まるでブルース・リーの「死亡遊戯」のような奇天烈さ。
 もちろんジャッキーは健在なワケで「じゃあなんでそんなことが起きたのか」はWikiを読んでもらえれば分かります。が、面倒くさがりのアナタのために端折って説明すると、主犯は例によってロウ・ウェイです。
 自分で撮った作品が一向にヒットしないのに、他社にジャッキーをレンタルした途端、「蛇拳」「酔拳」と立て続けに大ヒット。しかもジャッキーはゴールデン・ハーベスト社へ移籍してしまい、その腹いせにロウ・ウェイはわずかに撮ってあった「醒拳」のフィルムを元に一儲けしようと企んだ、というワケです。まあですから、酷いもんですよ。ストーリーも何もかも。
 本作が公開された際ジャッキーは、「あまりのお粗末さに裁判沙汰にしようかと思った」と言ったそうです。ところが昨年公開された「1911」が「ジャッキー映画出演100本記念」になってましたよね。実はその100本の中に「醒拳」もちゃんとカウントされていたんです。ま、時が解決したのかも知れませんが、そういう意味でもますます「幻の1本」と言えるでしょう。もちろんジャッキー・マニアか僕みたいな物好き以外、観る必要はまったくありません(笑)。

 今回の敵は「天鬼拳」を操る極悪兄弟で、この2人のワザは基本フィルムの早回しによって成立するという、ふた昔前の戦隊ヒーローものでもすでに見なかった手法が使われていて、「まったく何なんだよ、カンフーでもなんでもねーじゃんかよ」とぼやきたくなること間違いなしです。
 整合性のない編集も見ていてイライラするし、「こんなものを観る時間があったら、もっと成すべき大事があるんじゃないか」と久々自分に問い正したほどの1本でした。
 まあ若い頃っていろいろあるよね。

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十三人の刺客(2010年・日本) [2012年 レビュー]

監督:三池崇史 脚本:天願大介

 オリジナルの125分を若干オーバーする141分で作られたリメイクだが、三池演出が思いのほか冴えていて一気に見せる。オリジナルと異なるいくつかのポイントもなかなか効いていた。
 
 まず大きく異なるポイントは、暗殺のターゲットとなる明石藩主・松平斉韶のウェイトである。
 この役を稲垣吾郎が受けている段階で、何かしらの「旨味」が付加されただろうと想像していたけれど、さすがにバカ殿ではなく狂人として描かれ、そこには将軍家の子として生まれたが故の悲哀も包含されていたと思う。オリジナルとリメイクではエンディングが異なるのも、斉韶の扱いが違うからだ。
 リメイクのエンディングでは稲垣吾郎がなかなかの芝居を見せる。シニカルな三池演出が効いたこのエンディングも悪くないが、本作の大テーマである「侍の生き様」という点ではオリジナルの構成に軍配が上がる。島田新左衛門(役所広司)と鬼頭半兵衛(市村正親)は最後に剣を合わせなければ、対決軸はブレたと言わざるを得ないだろう。
 斉韶に時間を費やしたせいか、新左衛門の甥、新六郎(山田孝之)の描写がオリジナルと比べて少なかったのは残念だった。オリジナルでは当時27歳だった里見浩太郎が艶っぽく演じていて、なかなか見栄えがしたのだけれど、山田新六郎はちょっと食い足りなかった。

 分かり易さという点ではさすがにリメイク版が勝っている。
 一番は「集団暗殺」を正当化するため、つまりは観客に「斉韶暗殺致し方なし」とその気にさせるための仕掛けだ。リメイク版のオリジナルとして用意されたのが、両手足を切断され、斉韶の玩具となっていた女。飽きた斉韶に打ち捨てられ、瀕死のところを救われた女は、新左衛門の前で“恨みの一筆”をしたためるのだが、このシーンは強烈の一言。しかし三池崇史の変態ぶりが露骨に出たこのシークエンスによって、すべての観客が集団暗殺を認めたはずだ。

 十三人の刺客の中で、大きく設定を変えたのが十三人目の刺客となる木賀小弥太(伊勢谷友介)。
 オリジナルでは落合宿の郷士(武士階級の下層に属する者)として山城新伍が演じていたが、リメイクでは絶倫の山の民という意味不明な設定になっていた。しかも落合宿の庄屋(岸部一徳)のオカマを掘る必要があったかどうか。このシーン、笑えたけど間違いなく品は下げた。
 暗殺実行の段になって、島田新左衛門と組頭・倉永左平太(松方弘樹)の動きもオリジナルとは異なっている。オリジナルで片岡千恵蔵と嵐寛寿郎は割りと終盤まで宿の奥に引っ込んでて、事の成り行きを見守っているが、リメイクでは初っ端から斬りまくっている。しかも「人を斬ったことのない時代の侍の殺陣」がオリジナルの見せ場だったはずなのに、まあ松方弘樹の剣さばきの見事なこと。思わず笑ってしまった。

 「十三人の刺客」には久しぶりに惚れ惚れしたセリフがあった。
 新六郎が叔父の仕事に加担するため、居候していた芸妓の家を出るシーン。「出かけて来る。しばらく帰らない」と言い残した新六郎に、察した芸妓の「いつ戻るの?」にこう返す。
 「早ければひと月。遅ければ盆には帰る。送り火焚いて待っててくれ」
 粋で泣かせるセリフだ。

 とまれオリジナルとリメイク。正直言ってどちらもちゃんと面白い。
 そして、どちらもオススメ出来る
映画というのも珍しい。

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十三人の刺客(1963年・日本) [2012年 レビュー]

監督:工藤栄一 脚本:池上金男

 2010年に監督三池崇史、主演役所広司でリメイクされた「十三人の刺客」のオリジナル。
 仙台出張の車中で観る映画を、iTunesStoreで物色していた際に見つけてダウンロード。ポスターはカラーだけれど作品そのものはモノクロだった。でもモノクロであったおかげで作品全体が締まったように思う。実に見応えある125分だ。

 江戸時代後期。明石藩家老の間宮図書が筆頭老中土井利位(丹波哲郎)の門前で訴状とともに自決する。訴状には明石藩主松平斉韶の暴虐ぶりがあった。しかし斉韶は将軍家慶の弟である故、幕閣は彼を処罰出来ずにいた。折しも何の事情も知らぬ家慶が、斉韶を老中に抜擢する意向を示したため、筆頭老中土井は斉韶暗殺を決意する。土井の命を受けた旗本島田新左衛門(片岡千恵蔵)は腕の立つ男たち11人を集め、参勤交代帰国途中の斉韶を狙うのだが…。

 まず印象的だったのは音の使い方。
 昨今の活劇は止めどなく音楽が流れているが(「スター・ウォーズ」なんざその最たるもの)、本作から音楽は極力省かれていた。ノイズの使い方もおもしろい。たとえば役者の立ち位置からして玉砂利を踏む音がすべきところ、その音をわざわざ排除し、セリフのみアテレコするという細かな演出が施されている。
 これらは観客をドラマに没入させるため、不要なものは徹底的に排除するという工藤栄一監督のこだわりだろう。もしもこれを暗い劇場で観ていたら、観客はまるでそこに居合わせた目撃者のような感覚を得たに違いない。その緊張感はさすがにiPadでは味わえなかった。

 さらに本作を楽しむために理解しておくべきは江戸後期という時代背景である。
 1638年に島原の乱が鎮圧されてから幕末まで200年以上もの間、日本では大きな戦争も内乱もなく、世界史的に見ても稀に見る平和な国だった。つまり「刀は持っているものの、人を斬ったことなどない」侍が多数を占めていた時代だったということだ。
 当時の侍は自身のアイデンティティを探し求めていたと聞く。
 「何のために侍として生きているのか」
 その思い込みの果てに侍としての死に場所を探すこととなり、斉韶暗殺は命を賭すに相応しい仕事と旗本新田新左衛門以下、刺客となるのである。
  
 そんな中で行われる暗殺劇。
 Wikiによると工藤監督は「初めて人を斬ろうとする侍たち」を表現するため、殺陣師による綿密な段取りをつけず、刺客側の俳優が表れたら一斉に斬りかかるというラフな演出で撮影を行ったのだと言う。確かに混乱している様子は見て取れた。しかし個人的にはこのクライマックスが一番の不満だった。僕にはどうしても「段取りの悪い殺陣」にしか見えなかったからだ。この部分、三池崇史監督がどう撮ったのかがすごく気になる。近いうちに観てみたい。

 それにしてもクライマックスに至る前段は素晴らしく良く出来たドラマだった。
 美術も構図も照明もカメラワークも何もかもが荘厳。モノクロームの質感がこれまた絶品でため息が出るほどの美しさ。これで手持ちカメラによる移動撮影とクライマックスの殺陣が噛み合っていたら、「七人の侍」にも負けない名作になっていただろう。

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カンニング・モンキー/天中拳(1978年・香港) [2012年 レビュー]

原題:一招半式闖江湖/HALF A LOAF OF KUNG FU
監督:チェン・チー・ホワ

 凄まじい駄作(笑)。
 日本では「酔拳」「蛇拳」「笑拳」に続いて公開された作品ですが、実際にはこれらの作品以前に撮られた1本。ロー・ウェイによって「第二のブルース・リー」として売り出されたため、シリアス路線の作品が多かった中、ジャッキー自身がやりたかったコミカル路線を、若手スタッフと試しに作った作品と言われています。ただしこの当時のジャッキーにお笑いのセンスはなかったと見えて、相当ヒドい作品になっています。

 賞金稼ぎがお尋ね者と対決している場面に偶然遭遇した風来坊のチェンコウ(ジャッキー・チェン)は、2人が同士討ちになったのをいいことに賞金稼ぎに成りすまし、死んだお尋ね者をお上に差し出して、まんまと賞金を手に入れた。ところが賞金稼ぎを名乗ったおかげで盗賊団に狙われる羽目になる…。

 ジャッキー作品の中で、後にも先にも珍しいのはパロディを多投していること。
 座頭市、ブルース・リー、ポパイといったキャラクターを突然披露するんですけど、まったく成りきれていなくて、やる意味すら分かりません。他にもやたらとオナラをするキャラがいたり、滑稽な効果音で無理矢理笑いに転嫁しようとしたり、すべて小手先で笑わせようとしているところが全然ダメです。
 ロー・ウェイは本作の試写で激怒し、これをお蔵入りにしたと言われていますが、その気持ちはよく分かります。ただよせばいいのにロー・ウェイは、「本当のコメディの作り方を見せてやる」と言って「拳精」を作ったらしく、
観たことのある人ならきっと、「オマエもオマエじゃ!」とツッコミを入れることでしょう。
 監督は「蛇鶴八拳」と同一人物。面白いことに「蛇鶴八拳」と同じロケ場所が本作で何度も出て来ます。制作チームも一緒だったんでしょうね。とにかく自分たちのやりたいことを、出来るだけお金もかけず作ろうとした跡は見て取れます。
「蛇鶴八拳」に出ていた男装する小柄の女性格闘家も出て来ます。大して可愛くない女優だから、もう一度使う理由はよく分かりません。

 いずれにしてもジャッキーにとっては、ロー・ウェイに逆らって作ったコミカル路線の第一号。これがなければ今のジャッキーは無いと言えるでしょう。そう言う意味ではかなりメモリアルな作品。
 ただカンフーの秘伝書をチラ見しながらワザを出し、敵を倒すと言う仕掛けになっているので「カンニング・モンキー」というのは強引すぎやしませんかね(笑)。
 それと本編も残り10分と言うところで何の脈略も無く、新キャラ(しかもボスキャラ)が出てくるのは、ぜーーーーーったいに有り得ないと思うんですけど。「オマエ誰やねーん!」とツッコミを入れたのは言うまでもありません。

 「ジャッキー映画コンプリート計画」そろそろ一旦終了が近づいてます。
 いい加減飽きて来ました(笑)。

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龍拳(1978年・香港) [2012年 レビュー]

原題:龍拳/DRAGON FIST
監督:ロー・ウェイ 脚本:ウォン・チュン・ピン

 ここまで観て来たロー・ウェイ作品の中では一番まともな作品。
 どちらかというと陰湿なドラマですが、それでも展開が意外と面白い復讐劇です。
 復讐劇でありながら意表を突いているのは、師匠を殺されたタン・ホーエン(ジャッキー・チェン)が仇を討つため修行を積み、3年後に敵の道場へ乗り込んだら、敵は改心して善人になっていた、という展開。しかも反省の証に片足切断しちゃってますから、さあ大変。これって復讐劇にあるまじき究極の肩すかし。悪人が善人になってるってアータ。ダース・ベイダーだって最後だよ、善人に戻ったの。ジャッキーの立場からすると「だったら足とか斬っちゃう前に先に言ってよ〜。オレ3年も修行しちゃったじゃーん」ですよね(笑)。

 もうひとつ面白いなあと思ったのは、ジャッキーの師匠を殺した敵の妻が自殺をし、夫にある抗議をする件。実はジャッキーの師匠と敵の妻は18年前、愛し合っていたというものすごいフックが飛んできます。妻の懐にはこんな遺書が。
「18年前、私とソウ氏が愛し合っていたのは事実です。でも今でもそれを恨み、彼を殺すとは情けない。私はあなたを愛しているのです。今後は忍耐と寛容を心がけてほしい。私の死を戒めにして下さい」
 うわあ、もう知らんわ君ら夫婦。

 肩すかしを食ったのはジャッキーだけじゃありません。観客もそう。そのためにさらに悪どい連中が出て来ます。良かった良かった。この三すくみが「陰湿だけど意外と面白い復讐劇」を構成しています。
 ドラマの鍵となるのは名脇役ジェームズ・ティエンさん。この人、ブルース・リーの時代から主役を盛り立てる2番手、3番手の役者として本当に頑張っています。ジャッキーとの共演も多いので、組み手はなかなか見応えがあります。
 ただ個人的に残念なのは、対決シーンの半分以上がフィルムの回転数を上げていること。背景の木や風鈴が変な揺れ方をしているのですぐ分かるんですよね。早回しにしたくなる気持ちは分かりますが、僕はジャッキーのポテンシャルこそ最大の見せ物だと思っているので、この手の演出は反対。

 余談ですが、この作品でジャッキーのビジュアルはほぼ完成したものと思われます。カットによっては右まぶたの様子が若干違うので、もしかしたらこの作品の途中でも何度目かの整形手術をしていたかも知れません。その辺りはジャッキー映画コンプリート後に整理したいと思います。
 あ、本作にもノラ・ミャオ出てます。肌が荒れていてちょっと可哀想だけど。

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ジャッキー・チェンの燃えよ!飛龍神拳/怒りのプロジェクト・カンフー(1978年・香港) [2012年 レビュー]

原題:飛渡捲雲山/MAGNIFICENT BODYGUARDS
監督:ロー・ウェイ 脚本:クー・ルン

 映画の邦題ってのは、日本の映画会社が勝手に付けたり変えたりしていいんですかね。
 ネット上で拾ったいくつかの資料によると本作は「神拳/ヤングボディーガード」ってタイトルだったときもあるし、「ジャッキー・チェンの飛龍神拳」だったときもあるようで、それがデジタル・リマスター版のリリースのタイミングで、表題のタイトルに変更されたようです。
 「燃えよ!」は言うまでもなく「燃えよドラゴン」から。「怒りの」は「ドラゴン怒りの鉄拳」から。「プロジェクト」は「プロジェクトA」からに違いありません。つまりオリジナリティはゼロなんですね。一体どんな狙いでこんなタイトルを付けたのか、張本人から聞いてみたいもんです。

 拳法の達人ディン(ジャッキー・チェン)はある富豪の女主人から、「重病に冒された弟を山賊の出る山を越えた医者に見せるためボディーガードになってくれ」と頼まれる。ディンは親友のション(ジェームズ・ティエン)と、耳は不自由ながら足技の達人チャン(ブルース・リャン)を仲間に加え山越えの旅に出るが、一行は次々と山賊たちの襲撃を受ける…。

 悪名高いロー・ウェイ×クー・ルンのコンビです。
 ただし「成龍拳
」や「ファイナル・ドラゴン」ほどヒドい脚本じゃなかった。「重病患者を山向こうの医者に届ける」という縦軸はしっかりしているし、後半に用意されたどんでん返しも悪くはない。ただロー・ウェイの監督としての力量が本当に低くて、映画としての魅力は限りなくゼロに近いです。武術指導も務めたジャッキーの演武がなかなか見応えがあるので、もっと丁寧なカット割りと撮影をして欲しかったのだけれど本当にヒドい。
 ジャッキー・チェンはこの翌年「クレイジー・モンキー/笑拳」(1979年)で初の監督に挑戦しますが、これはロー・ウェイが反面教師になったんじゃないかと思いますね。僕でも「これならオレがやった方がまだマシ」って思うもん(笑)。ちなみにジャッキーの目の整形手術は終わってます。

 さて本作には衝撃的な事実がひとつ隠れています。
 それはBGMに「スター・ウォーズ」のサントラが流用されていること。初めて流れたときには耳を疑いました。でも何度も何度も使われているので、聴いてるうちに逆に怖くなりました。
 ロー・ウェイおまえ、絶対ルーカスの許可、取ってないだろう!
 劇場公開だけじゃなく、DVDにまでしちゃってますからね。これがバレたら相当なペナルティを受けると思います。いやあ罰金はたぶん「億」まで行くでしょう。最近ジャッキー作品の権利を取りまとめた香港フォーチュンスター社が突然デス・スターの攻撃で消滅しないことを祈るのみです。

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